『小休憩』17番目の物語【楽園の主人と管理人の話】
利糸(Yoriito)
楽園の主人と管理人の話
遠い昔か
人間に生まれながら人間に
青年が楽園で人間としての寿命を全うすると楽園は静寂に包まれる。それから
誰も彼もの侵入を
人間と共に造り上げた楽園を、自分達だけで維持していくことが不可能であることを妖精達は最初から分かっていた。分かっていたがこの瞬間が
妖精達は選択を
妖精達は結論に至る。青年と造り上げた楽園は妖精達にとって掛け替えのないものだった。青年が居ないからこそ守り抜きたいものだった。
妖精達は決意する。新たな人間の主人を迎えることを。けれど、妖精達は青年以外の人間を
そして、楽園の扉は再び開かれる。
「ああ、理想的な楽園だ」
驚くべきことにその少年は、洗脳しようと試みる妖精達を
「ふん」
石を無機質に
「あまり座られた形跡のない椅子だな。
少年の言う通りだった。その椅子は、作ったはいいがあまりの重々しさに使われることのなかった形ばかりの椅子だった。妖精達が愛した青年は地べたに座り、近しい場所で妖精達と接することを好んだ。主人など名ばかりで、決して
「まあ、なんでもいいさ」
少年はそう言うと片方の肘置きに頭を乗せ、もう片方の肘置きに足を乗せて椅子の上に横になる。その様子にひとりの妖精が飛び出して行こうとするが、その妖精を別の妖精が引き留める。
『どうして止めるの!』
引き止めた妖精の視線が落ちる。
『……もう、疲れた』
怒っていた妖精が驚いて周囲に目をやると、他の妖精達も皆同じような顔をしていて、身体から力が抜けてしまう。一様に諦めたような顔の妖精達に声が掛かる。妖精達が愛した青年の穏やかな声とは程遠い、それは愛想の欠片もない声だった。
「お疲れ様。僕は休む。君達も休めばいい」
そう言うと少年は妖精達になどまるで関心がないと言わんばかりに目を閉じる。悪意も邪念も見えない少年に、妖精達はお互いの顔を見合わせた。
少年の存在が楽園の
『でも、なんかおかしいわよ』
妖精達は
少年は大半の時間を楽園の主人の椅子の上で寝て過ごす。時々目覚めては再び眠りにつく。そんなことを繰り返す少年に大半の妖精が見飽きてしまった頃、
「……」
何度か瞬きを繰り返し、椅子から降りるとやおら歩き出す。少年を警戒し続けていた
妖精達はそこに何も見出すことができない。けれどそこには少年にだけ見える姿があった。
「 」
「ああ。まあ」
「 」
死して尚、残された妖精達を心配して去ることのできなかった青年は力なく笑う。
「 」
少年は大きなため息をつく。
「マヌケ。僕はもう、一度閉じたこの楽園を開くつもりはない。ああ、そうだ」
少年が振り返ると、木の陰から少年のことを
「いつまでも視線がうざったいんだ。あんたがご機嫌取りしてくれよ」
少年が指を鳴らすと何もなかったその場所に、妖精達にとっては酷く懐かしく愛しい者の姿が現れる。その姿に言葉を失くした妖精達は次の瞬間には声にならない
「管理人でもやれば」
少年は妖精達にもみくちゃにされる前楽園の主人に背を向けた。
青年は視界を
「妖精達にすら感知することのできなかった僕を見つけた君は、一体何者なんだろう?」
「さあね」
少年はつっけんどんに言って歩き去る。
:::
「マスター、マスター。僕の可愛いご主人様。お茶が入りましたよ」
「その呼び方ヤメロ」
少年はいつものように
「あなたが僕に役職をくれたんじゃないですか。僕が楽園の管理人で、あなたは楽園の主人。つまりあなたは僕の上司。
「……」
『アキマ。頼まれたハーブ持って来たわよ』
「ありがとう」
青年が戻ってからというもの、妖精達の様子は明らかに明るく元気になっていた。今も手の平大の妖精が羽をキラキラと輝かせながら青年に
少年にとってはその光景すべてがどうでもいいことだった。けれど、どうしても訂正しなければ気が済まない。
「僕はあんたに管理人になればとは言った。確かに言った。けど、お茶
上司と言う割に青年の少年への態度には遠慮がない。現に今も少年を無視して手際よく、妖精達が地面から生やした机の上にてきぱきと、見目も
少年はふてくされて椅子に身体を
「僕のことは放って置いてくれ。やっと理想的な静かな場所に
「はい」
口の中にふかふかの香り高い何かが放り込まれた。思わず少年は
「おいしい……」
それは衝撃的なおいしさだった。我に返った時には
「僕だって人間と関わり合いになるのは
「だったら……」
「ですが、あなたは特別です!」
「……」
「あなたは僕に、置いてきてしまった妖精達へ再び
瞳を輝かせる青年に、少年は顔を
「はあ。こんな筈じゃなかった」
「ハーブティーをどうぞ」
「くそ。ここでは何も食べなくても平気な筈なのに」
「
新たな主人に新たな管理人を迎えた楽園の穏やかな日々は続く。
了
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