第16話 レベル差

「レベル差があり過ぎてもうここでは経験値が貰えなくなったッスから、いったん街に戻るッスよ。オババ様にも会いたいッスしね。」


『そうですね。深淵媼様にも私の新しい姿を見てもらいたいです。主様、荷物があれば私の影収納にお入れください。』


…オババの前で”深淵媼”なんて言うなよ。…


『シャー♪』


…オババはブロッケンを見たら、何て言うかな?…


街に戻るために盗賊達の戦利品を影収納した後、【盗賊の洞窟】を出て街へ向かった。


街道沿いを歩いていると、上空で索敵しているブラックサンダーから念話が届いた。


『主様、この先にペガサスに騎乗した人間がいるようです。』


…会いに行くって約束して、三ヶ月も経ったから手分けして捜索しているのか…。それとも、人違いがバレたか…。…


「旅人に変装した方が良いかもしれないッスね。サンダー、影収納から旅人っぽく見える服を出してくれるッスか?」


ブラックサンダーは影収納から一着の服を取り出すと恭しく差し出してくる。


『どうぞ。』


…妖精はイタズラ好きのイメージがあるから、ザ・妖精の姿で礼儀正しくされるとちょっと違和感があるな。…


……


近くの茂みで着替えを済ませて、街道沿いをゆっくりと歩いているとペガサスに騎乗したフルプレートの女騎士が近づいてきた。


「両手を上げて、止まりなさい。」


言う通りに両手上げて止まると、女騎士は騎乗したまま持っている槍の切っ先をこちらに向けてくる。


「身分証はある?」


首を横に振りながら答える。


「成人していないので持っていないッス。」


女騎士は切っ先をさらに近づける。


「なぜ、ここを一人で歩いてるの?」


…試してみるか。…


「孤児で一人で旅をしてるッス。」


女騎士は少し考え込んだ様子を見せる。


「なるほど、孤児が一人ね…。君は、天馬騎士団のシンディ様とアステア様を知っている?」


右の人差し指に嵌めている従魔の指輪を見せて答える。


「知ってるッス。この前、アステアさんからこれを貰ったッス。」


女騎士は、従魔の指輪を食い入るように眺めながら声をあげる。


「それは、天馬騎士団の一部の幹部のみに皇帝陛下から下賜される“従魔の指輪”ッ!子どもに譲ったという噂は本当だったのねッ!」


…たしか、天馬騎士団員が功績をあげると、皇帝から支給されるアイテムだったかな。…


「それで、何か用があるッスか?」


女騎士は、槍を構えて嬉しそうに声をあげる。


「フフ…。孤児なんて、突然いなくなってもと思わない?3ヶ月間あなたを探してたのよ。その“従魔の指輪”を手に入れるためにね。私が”従魔の指輪”を有効活用してあげるわ。まあ、盗賊に殺されたと思って、大人しく死になさい。あぁ、誰も助けになんてこないわよ。私は、宿舎で休んでいることになっているし、この辺りには誰もいないことは確認済みだから…ネッ!!」


女騎士から放たれた突きが勢い良く向かってくる。


―ガギンッ!


「な、なにッ!」


槍が喉元に到達する瞬間、見えない障壁によって弾かれた。


「俺の防御力がお前の攻撃力を上回ってるから、防御とか回避をしなくてもダメージは受けないッスよ。」


「えっ…」


「ブロッケン、いくッスよ。」


ロングソードに変化させたブロッケンを右手に構え狙いを定める。


『シャー♪』


―ザシュッ!


ロングソードを横に一閃し、ペガサスの首を撥ね飛ばした。


…この体勢だとペガサスの首が精一杯か。…


女騎士はペガサスの背から慌てて飛び降りると、バックステップで距離を取る。


「…チィッ!…手を出しちゃいけない相手に手を出したかもしれないわね…。見た目で判断しちゃダメだって、上の連中を見て、十分理解できているはずなのにね。」


「まず距離を取ったッスか?下っ端の割に判断が早いッスね。」


イベントリから魔道書を取り出し、左手に構える。


―封印の魔弾―

発射ッ!


ドシュッ―


バレーボール程の大きさの魔力の弾丸を騎士に向けて勢い良く放つ。


「この私が下っ端ですってッ!いい気になるんじゃないわよガキがッ!魔法も使えるということはマージナイトッ!なら、接近戦は大したことないはずッ!」


女騎士は魔弾に向けて槍を振るう。


…魔法の威力が低いと見て、槍で魔弾を弾き返す気か?魔法攻撃力40(魔力50-魔弾ペナルティ10)はゲーム終盤でも一般兵を2発で倒せる威力。いくら魔法防御が高いペガサスナイトでも正面から受けたらひとたまりもないぞ。…


「えっ…」


―ドガァァンッ!!


魔弾を槍で凪ぎ払おうとした女騎士は、爆発に巻き込まれ、後方に吹き飛ばされた。


「グハァッ!…バ…カ…な……ッ…」


女騎士は、そのままグッタリとして動かなくなった。


「サンダー。ブロッケン。証拠隠滅をお願いするッス。」


『御意に。』


ブラックサンダーは倒れた騎士の側に影転移すると、騎士に止めを刺した後に、装備品を剥ぎ取り、影収納に放り込んだ。


『シャー♪』


武具化を解除したブロッケンは、ペガサスと女騎士の死体に近づくと一瞬のうちに丸飲みした。


…あの体にどう収まったんだろう?ブロッケンは小型化したけど、食べる量とスピードは変わらないな。まあ、サンダーの影収納に死ぬほどブロッケン用の食料(盗賊)があるから良いんだけど。…


「さあ、気を取り直して街に向かうッスよ。」


『『御意に(シャー♪)』』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る