第13話 盗賊の洞窟
シンディとアステアと改めて街で会う約束をして別れる。
…シンディから「一緒に帰るッ!」と駄々をこねられたけど、もう少しステータスを上げておかないと、やっぱり安心できない。なにかの拍子に、また襲ってきかねないからな。会う約束もしたけど、会う訳もない。…
「気を取り直して盗賊退治に行くッスよ。サンダーは索敵。ブロッケンは目立つから指輪の中で少しだけ待機しててほしいッス。」
『了解しました。私は上空から警戒しています。』
『シャーッ♪』
ブロッケンを従魔の指輪に収納して、【盗賊の洞窟】へ向かった。
………
……
【盗賊の洞窟】
今までの波乱が嘘のように何事もなく【盗賊の洞窟】にたどり着いた。
「自分よりも強い敵と戦うと急激に強くなれるッスけど、やっぱり弱い敵を狩りまくって安全にコツコツ強くなるのが一番ッスよね。」
『闇の深淵に至るまでは、雌伏の時が必要ということですね。』
『シャーッ!』
…会話が若干噛み合っていないような気がするけど、まあいいか。…
洞窟の奥へと進んでいくと、盗賊達が酒盛りをしている場所にたどり着いた。
…ゲームでは、ここに入ると問答無用で戦闘開始になったんだけど、ここではそうならないのか。…
「みんなッ!先手必勝でやっつけるッスよ。」
従魔達の様子を確認してから、盗賊達に気づかれないように封印の魔道書を静かに構える。
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
バレーボール程の大きさの透明な球体を生み出す。
…発射ッ!…
―ゴォンッ!!!!
球体はバレーボールのスパイクのようなスピードで発射され、着弾すると小爆発を起こし盗賊を大きく吹き飛ばした。
突然の出来事に盗賊達は混乱状態に陥る。
「な、なんだァァァァァァッ!!」
「ひぃぃぃッ!」
「こ、こっちには、きょ、巨大な大ムカデだァァァァァッ!」
封印の魔弾が開戦の合図となり、戦闘が始まった。
「みんなッ!いくッスよッ!」
『御意に。』
『シャーッ!』
…
戦闘を開始してから5分もしないうちに30人以上いた盗賊達がすでに半分以下に減っていた。
封印の魔弾で盗賊達を吹き飛ばしながら、従魔達の様子を眺める。
ブラックサンダーは、忍び足スキルで羽音を消して敵の背後に近づき、盗賊達を次々に麻痺させていく。
ブロッケンは、戦車のような質量で押し潰しながら、顎肢を使い盗賊達を切り刻んで咀嚼していく。
…う~ん。ゲームでは普通に盗賊でレベリングしてたけど、現実化されるとこうもSAN値が削られていくのか。ブロッケンのお陰で死体が残らないのがせめてもの救いか。まあ、ブロッケンの戦闘シーンが一番グロいんだけどね。…
フロアにいた盗賊達を殲滅すると、奥から大男と長髪の男がやって来た。
大男は、こめかみに血管を浮かび上がらせながら大声で叫ぶ。
「おいぃぃぃッ!よくもかわいい子分達を殺ってくれたなッ!ルドルフさんッ!やっちまってくだせえッ!」
大男の言葉に長髪の男は無言で頷くと、剣を鞘から抜いてこちらへ向かって走り出した。
…おおッ!【盗賊の洞窟】でレベリングしてると稀に出現する傭兵ルドルフ。シスターのルナで説得すると仲間になる隠しキャラ。…
「サンダーとブロッケンは大男を頼むッス。長髪は俺が対処するッス。」
鉄のナイフを構えて、ルドルフの攻撃に備える。
ルドルフは、体を高速で反転させる独特な足さばきで一気に間合いを詰めると同時に斬撃を放った。
…ルドルフのスピードを活かした特殊な剣技。ゲームで何度もみたから、何とか捌ける。…
―ガキンッ!!!
鉄のナイフで斬撃を受け流すと、ルドルフは目を見開いた。
「その装備…貴様は魔法職のはずッ!なぜ、ナイフ一本で俺の斬撃が受け止められるのだ!?」
…一応説得してみるか。…
「盗賊達はもうほぼ全滅してるッスから、退いてくれないッスか?ほら、そこの大男もすでに劣勢ッスよ。雇い主がいなければ戦う理由は無いはずッス。」
ルドルフは表情を変えずに攻撃を続ける。
「…一度受けた依頼は最後まで受ける。例え、依頼人が死んだとしても。」
…シスターのルナが説得すると、コロッと鞍替えするくせに…。…
「退かないなら、仕方ないッス。覚悟するッスよ。むっつりスケベさん。」
右手の鉄のナイフでルドルフの攻撃を受け流しながら、左手で封印の魔道書を構える。
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
「―発射ッ!」
封印の魔弾を、ゼロ距離でルドルフに向けて放つ。
「ぐぅぅぅッ!!!」
ルドルフは剣で防御するも、魔弾が刀身に触れた瞬間に爆発が起こり、後方に大きく吹き飛ばされる。
―ゴォンッ!!!!
…今ので5ダメージは与えた。HPは35だったから、あと6発で倒せる。…
右手に持ったナイフの切先をルドルフに向けながら、左手に持った魔道書で封印の魔弾を放つ。
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
―発射ッ!
「この距離ならば回避できるッ!」
ルドルフは立ち上がると、右方向に回避するが、魔弾の軌道が変わり左脇腹に直撃を受ける。
―ゴォンッ!!!!
「ぐごぉぉぉッ!はぁ、はぁ…、距離があったのに回避できない!?…あり得ないッ!この俺が、魔法職に速さと技で負けるわけが…。」
…技のステータスは命中率とクリティカル率を補正してくれる。剣士は、技と速さにボーナスと成長率補正が入るからレベル差があっても魔法職に負けることは“通常”ない。しかし、裏技を使っている俺は“通常”の話は通用しない。…
「今さら命乞いなんてしないでくださいッスよ。」
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
魔弾を生み出し、ルドルフに狙いを定める。
発射ッ―
「物体に触れると爆発する魔法であれば、最初に爆発させてしまえば自爆技になるだけだッ!自分の魔法で吹き飛べッ!」
シュッ―
ルドルフは腰に着けてているホルダーから短剣を取り出すと、魔弾に向けて投擲した。
―ドォンッ!!!!
「残念ッスね。」
「なにぃぃぃッ!?無傷だとぉッ!?」
短剣に射抜かれた魔弾は爆発を起こすが、全く影響を受けなかった。
…魔弾の魔法攻撃力よりも魔法防御力が上回っているから爆発の影響を受けることはない。…
…つまり―魔力のステータスは、魔法防御にもなる数値だから、魔力攻撃が下がる封印の魔弾の自爆ダメージはゼロなんだよ。…
「今度はこっちの番ッス!」
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
―封印の魔弾(封印の魔道書)―
…
爆発の影響を全く気にすることなく、魔弾を次々に周囲に生み出していく。
「盗賊のボスも降参したみたいッスね。さあ、何か言い残すことはあるッスか?」
ルドルフは、剣と短剣を地面に投げると両手を挙げて降参する。
「俺の敗けだ。煮るなり焼くなりするがいい。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…。」
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