第8話 死闘

朝、支度をして店舗スペースに行くと、オババはいつもと変わらず店のカウンターに座っていた。


「オババ様。おはようッス。昨日のご飯もメッチャ美味しかったッス。」


…なんだか、会うたびにオババが優しくなっていく気がするな。…


「おはようさん。商売の話なんだが、昨日こんなもんを仕入れたんだけど、当然、買ってくれるんだよねぇ?」


オババはニヤリと笑うと、カウンターに魔道書を置いた。


・封印された魔道書(∞)…1000ゴールド


…これは魔力が10マイナスされる代わりに無限に魔力弾が撃てるようになる魔道書。…


…かなり微妙な武器だけど、俺にとっては超重要武器だ。…


「もちろん、いただくッス。また、掘り出し物があったら、よろしく頼むッス。じゃあ、行ってくるッス。もしかしたら、しばらく来れないかもしれないッス。」


そう言いながらカウンターに代金を置くと、オババはシッシと追い払うように手を振る。


「恩返しするまで、死ぬんじゃないよ。いつでも、帰っておいで。」


「ありがとうッス。行ってくるッス。」


お辞儀をして、ブラックサンダーと一緒に店を出ると早足でスラム街を抜けて、屋台で売っている商品を物色しながら街の中心部にある道具屋に向かった。


「いらっしゃい。」


赤い髪の若い女がカウンターに座っていた。


「見せてもらっても良いッスか?」


女店員は品定めをするような目で見つめた後、ため息をつきながら答える。


「ちゃんと買ってくれるならいいわよ。」


…ボロを着ていたら追い返されていたな。…


「ありがとうッス。」


店内に置いてある必要な商品を手に取っていく。


…品揃えはゲームの時とおおむね同じだな。まあ、現実だから実用品も置いてあるんだけどね。…


「これをくださいッス。」


・ダークアロー(闇の初級魔道書:25回分)…500ゴールド

・ダークアロー(闇の初級魔道書:25回分)…500ゴールド

・傷薬(10回分)…150ゴールド

・乾パン(10食分)…300ゴールド

・干し肉(10食分)…300ゴールド

・水筒…100ゴールド

・鍋(小)…100ゴールド

・皮のリュック…1000ゴールド


商品と代金をカウンターに置くと、店員は驚いた表情で算盤をはじき始めた。


…なんで驚く?こんな簡単な四則演算でも高度なのか?そういえば、オババも驚いていたな。…


「あ、合ってるわ…。高度な算術ができるのね。あ、ありがとう。また来てね。」


皮のリュックに購入した品を詰め込んで、店から出ようとすると、背後から店員とは別の女の声が聞こえる。


「あなた、どうも怪しいわね。鑑定も効かないし。子どもの癖に闇の魔導書を買うなんてかなりおかしいわ。そして何よりそんな高度な算術なんて貴族じゃなければ…おいッ!待てぇぇぇッ!!!」


聞こえないふりをして、そのまま店を出る。


…チィッ!予想が正しければ、かなり厄介なヤツに見つかっちまった。…


店を出た瞬間、街の出口を目指して最大スピードで走り出した。


…振り切れるか?…


人混みを掻い潜りながら、街の出口を通過する。


……


街を出て、しばらく走ったところで上空で待機していたブラックサンダーを呼び寄せる。


「サンダー。追っ手は来てるッスか?」


『ペガサスに乗って凄いスピードで追って来くる者がいます。どうやら追跡系のスキルを持っているみたいですね。』


…あの声にペガサスと追跡スキルということは、間違いなくアイツか。…


「サンダー。この辺で一番デカイ蜂の巣はあるッスか?」


『もう少し進んだ森の中にこの辺一帯を縄張りにしている蜂の巣があります。』


…こうなったら徹底抗戦だ。…


ブラックサンダーに案内された蜂の巣の場所へ辿り着くと、インセクトの魔法で蜂達を使役していく。


この辺一帯の蜂達を全てを支配下においたところで、視線の奥に空を飛ぶペガサスナイトの姿が映ってきた。


…ゲーム登場時のアイツのステータスのままだったら、ステータス勝負ではこちらが負けているはず。…


…本当は逃げ切りたいところだけど、追跡スキルでマーキングされてしまった以上、いつかは見つかってしまう…。見つかるタイミングが選べないのであれば、ここで決着をつけるのがベターだ。…


「初撃にデカイのぶっ放すから、サンダーは蜂達を使って攻撃のチャンスをうかがっていてほしいッス。。確実に狙える時が来たら麻痺毒をお願いッス。あと、天使の指輪を貸して欲しいッス。」


『御意。』


上空に飛び立っていくブラックサンダー達を見送り、インセクトの魔道書からダークアローの魔道書に持ち替える。


―ダークアロー(闇魔法)―


自分の魔力と同じ本数の闇の矢を周囲に待機させる。


―ダークアロー(闇魔法)―


さらに、11本の闇の矢を周囲に待機させる。


―ダークアロー(闇魔法)―


合計33本の闇の矢を周囲に待機させた。


…ダークアローは、着弾しなければ1分間消えずに操作でき、リキャストタイムも無いから使い方を工夫すれば、裏技でこんな使い方もできるんだよ。…


ペガサスナイトが射程距離に入った瞬間、右手を前に出して闇の矢を射出する。


「発射ッ!」


33本の闇の矢が勢い良くペガサスナイトを襲う。


「な、なんだ?こ、これほどのダークアローがなぜ?…チィッ!メリクルッ!回避しろッ!」


女騎士が指示を出すと、ペガサスは旋回しながら回避行動を始める。


…速さはあちらが上だし、距離もあるから回避されるな。でも、想定内。…


―ダークアロー(闇魔法)―


生み出した11本の闇の矢を、回避する位置を予測しながら射出する。


「発射ッ!」


回避した先を予測して放たれた闇の矢は、ペガサスナイトを正確に射貫こうとした瞬間…


「悪には屈しないッ!奥義発動ッ!―天昇―」


女騎士は持っていた槍を振り回すと、周囲に竜巻を起こした。


…あれは、ペガサスナイトがファルコンナイトにクラスチェンジする時に覚える初級奥義。それを使えるということは、少なくとも中級職以上ということだな。…


…クソッ!こうなったら、出し惜しみ無しでいくぞッ!…


―ダークアロー(闇魔法)―


新たに生み出した闇の矢を周囲に待機させる。


…それにしても、さすが中級職以上の格上。全く隙がない。…


―ダークアロー(闇魔法)―


さらに、闇の矢を周囲に待機させる。


―ダークアロー(闇魔法)―


闇の矢を周囲に待機させる。


「裏技“収束”ッ!」


周囲に待機させた合計33本の闇の矢を、巨大な1本の魔力矢に集束させる。


…1分待機後、魔力矢が消える瞬間に後に出した矢を重ねると収束できる裏技。これなら、あの奥義を突破できるはず。…


竜巻を纏いながら突進してくるペガサスナイトを回避不能な距離ギリギリまで引き付ける。


「発射ッ!」


1本の巨大な魔力矢が竜巻を貫きペガサスの胸を撃ち抜いた。


しかし、女騎士はペガサスの背中を踏み台にして更に上空へ駆け上がった。


踏み台にされたペガサスは勢い良く地面に叩きつけられる。


「貴様ァァァァッ!よくも私の命よりも大切な愛馬メリクルをぉぉぉぉぉぉぉおッ!楽には死なせんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


…愛馬の体を何の躊躇もなく踏み台にしておいて何を言っているんだ?言いがかりでいきなり襲って来るし、ゲームの時よりもイカれてる。やはり、コイツは危険だ。…


―ダークアロー(闇魔法)―


生み出した13本の闇の矢を射出する。


…魔力が増えてる。ペガサスを倒してレベルが上がった。さすが、格上。攻撃をするだけでも経験値がスゴい。…


「ぐはぁッ!…クッ…こんなものメリクルの痛みに比べたらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!うぉぉぉぉぉぉッ!くらえッ!」


闇の矢に貫かれながら、女騎士は槍の一撃を繰り出してくる。


―ダークアロー(闇魔法)―


生み出した闇の矢を、前方に壁を作るように待機させて、バックステップで距離を取る。


「姑息な真似をぉぉぉッ!スキル―狂戦士化―発動ッ!」


女騎士が赤く発光しダークアローの壁を槍で粉砕した。


…やべぇ…。ここまでの強いとは想定外だ。あまりにも上手くいきすぎていて調子にのってしまったか?でも、やるしかないッ!…


―ダークアロー(闇魔法)―


ダークアローで壁を張りながら、右手に構えた鉄のナイフを使って女騎士の槍の軌道を反らして直撃を防いでいく。


「くッ!」


…一撃、一撃が重い…。…


「魔法職にもかかわらず、ナイフ一本で私の攻撃を耐えるとは敵ながら天晴れッ!実に惜しいッ!…だがッ!メリクルの仇は討たせてもらうぞッ!」


女騎士の攻撃が激しさを増してくる。


…くっ、耐えろぉぉぉッ!…


―ダークアロー(闇魔法)―


「フッ!」


………

……


「はぁ…はぁ…はぁ…」


「ははッ!こうも長く私の攻撃を耐えるとはッ!楽しい、楽しいぞッ!もっと私を楽しませてくれッ!」


女騎士が獰猛な笑みを浮かべながら、激しさしい攻撃を続ける。


…ぐぅぅぅッ!耐えてみせるッ!…


―ダークアロー(闇魔法)―


「フッ!」


引き続き、ダークアローの壁を張りながら、右手に構えた鉄のナイフを使って女騎士の槍の軌道を反らして直撃を防いでいく。


…もう少しだッ!もう少し耐えればッ!…

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