第40.5話 sisters talk4

夜中のインターフォンに、いたずらかと思ったものの、予感がして柚羽はベッドから起き上がった。


モニターに映った存在に溜息を吐く。


顔は映っていなくても見慣れた長身は、葵以外に思い当たる存在はいない。


部屋の前で迎えると、葵は予想通り泥酔状態だった。酒は強いのに、ここまで泥酔状態になるなんて、どれだけ飲んだのだろうか。


「酔っ払いの預かり所じゃないんだけど、うち」


真依にずっとベッドを譲っていて、久々にベッドに寝た途端に来た酔っ払いを、仕方なく柚羽はでベッドに放り投げる。


真依の匂いが残っていると自分が辛いと、柚羽は昼間にベッドシーツを全部替えた。そのお陰で葵に真依がいたことを気取られることはないだろう。


そのまま葵は眠ってしまって、柚羽はまた毛布を被って休むことになる。


真依に葵を振るなんてことができるのだろうかと疑心暗鬼だったものの、今の葵の姿は真依に振られたようにしか見えない。


振られてぼろぼろになるくらいなら、振られるようなことをしなければいいのにバカだな、と姉という生き物を見る。


何となく柚羽も葵のことは少し分かってきた。


一見何でもそつなくこなすタイプに見える。でも、2歳上とはいえ葵も柚羽と同じ年代の女性で、多少の経験の違いはあっても似た環境で育っている。だからこそ、柚羽と掛け離れた存在ではないのだ。人との関係には悩むことだってあるし、失敗もある。


遠くに思えていた姉という存在が、今は意外と近いのかもしれないと感じられるようになった。


柚羽も恋愛には不器用だけど、葵も不器用なことに気づいた。相手がよく替わっていたのは、葵が遊んでいたわけじゃなくて、葵が藻掻いていたような気さえしてきている。


とはいえ真依を苦しめことは、柚羽には許せないことだった。


「真依を幸せにするんじゃなかったの」


眠りに落ちた姉に、柚羽は声を投げ捨てた。





翌日の昼前になって、ようやく葵は目を覚ました。


「真依に振られちゃった」


やけ酒をしながら相当泣いたのだろう、葵の顔はメイクが崩れて酷い状態だった。


でも、葵はそんなことを気にもせず、ベッドの上で膝を抱えている。


「だからって泥酔して夜中に人の家に転がり込んでこないで。佳澄さんのことを口にして、真依を不安にさせたのはお姉ちゃんでしょう? 自業自得じゃない」


「どうして柚羽がそのことを知ってるの?」


葵が振られた理由を知っている口ぶりに、葵から疑問が投げかけられる。


「真依に聞かれたから知ってる範囲で教えた。あと、お姉ちゃんは誰とつきあっても長くて半年だって言うと泣いてた」


「真依は今までつき合った相手と違うって言ったじゃない」


「それを証明できるもの何かある? 真依は最近お姉ちゃんからの連絡も会う回数も減ってるって泣いてたよ。十分別れる前の前兆じゃない」


「違うから」


葵の言葉には何も根拠がない。


「じゃあ、この前の相手は? 友達だとでも言うの?」


「あれは……」


「別にわたしに釈明なんかしなくていいよ。でも、あの電話の時、真依も近くで聞いていたんだ。出張に行った時に真依の様子がおかしかったから理由聞いたら、もうお姉ちゃんが分からないって落ち込んでた。お姉ちゃんに真意を聞くつもりで掛けたのに、何あれ」


「…………」


「わたしは本気だっていうお姉ちゃんを信じてた。真依がわたしじゃなくてお姉ちゃんを選んだから、仕方ないって諦めようとしてた。でも、もうそういうの止める。だって、お姉ちゃんは真依を傷つけるだけだもん」


「ワタシだって、傷つけようなんて思ってない。今も真依が大切だし、愛してる」


葵が涙を流していることに柚羽は気づく。葵の泣き顔なんて、小さい頃に見たきりだった。


「真依に届いてないって時点でもう独りよがりでしかないから。真依が淋しいとも言えずに自分を責める性格だって知らなかったの?」


「そこまで真依が気にしてると思ってなかったんだ。週末に会った時に真依はいつも通りだったから……」


だが葵が真依を傷つけたのは確かで、葵の事情など柚羽にはどうでもいいことだった。


「何を言っても、真依はもう心を閉ざしたから。これからわたしが真依を守る。お姉ちゃんは近づかないで」


「柚羽……おねがい。それだけはやめて……」


「振られたお姉ちゃんにそんなこと言う権利ないよね? 真依はもうフリーだし、お姉ちゃんのせいで傷ついてる。そんな真依を放っておけないから」


「柚……」


柚羽の腕に手を伸ばしてきた葵の手を柚羽は振り払う。


「そんなにわたしに取られたくないんだ。お姉ちゃんが真依と付き合い始めたって知った時のわたしの気持ち分かった? なんで選りに選ってお姉ちゃんなんだろうって、お姉ちゃんが真依と知り合うきっかけを作った自分を呪うしかなかった。それでも、真依の心はお姉ちゃんにしかなかったから、わたしにできることをするしかないって、心の整理までつけたところだったのに」


「…………」


「もうこれからはわたしは遠慮しない。お姉ちゃんが真依を諦められないのなら、それはそれでいいよ。でも、真依はもうお姉ちゃんのものじゃないから」


「……分かった」


「諦めないんだ?」


「そんな軽い気持ちで真依を好きになってない」

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