5
沙良星は、深く息を吐いた。
この日まで、9勝4敗。千秋楽に、二桁勝利がかかる。
それ以上に注目されていたのが、「つり出し率」だった。9勝のうち3勝がつり出しだったのである。派手な技は見栄えがいいし、プロレス的な要素もあって盛り上がった。
そして。最終日の相手は盾若草。再入幕した今場所はここまで、10勝4敗。勝てば優勝決定戦以上、という一番だった。
沙良星は負けるわけにはいかなかった。成績で越されるわけにも、先に優勝されるわけにもいかない。
土俵に上がると、以前よりも相手の体が大きくなっているのが分かった。稽古をしてきたのだろう。顔つきにも自信がうかがえる。
沙良星は、いつもより腰を低くまで下ろした。立ち合い、陸上のスタートのように飛び出し、両手を前に出す。盾若草は、少しひるんだ。予想外だったのである。
そのまま少し押し、沙良星は体勢を低くして左の下手を取った。盾若草は両手で抱え込む。体勢はいいものの、相手の腰が重く沙良星はなかなか動けなかった。
目の前に、相手の左足が見えた。よみがえる記憶があった。
右手で、がっちりと足をつかむ。さすがに頭に手を回すことはできないが、下手を使えばうまくいきそうな気がした。
投げを打ち、盾若草の体を揺さぶる。堪えようとしたところを、つかんだ足をすくいあげた。フィッシャーマンスープレックスを応用した動きだった。
盾若草の体が、あおむけに倒れる。なかなか、決まり手の館内放送が流れなかった。
沙良星(10勝5敗) 大股 盾若草(10勝5敗)
結局、4敗の力士が勝利し、盾若草は優勝決定戦に進めなかった。成績上、沙良星も優勝次点ということになった。
それを自覚した時、沙良星は唇を噛んだ。あと1番勝っていれば、決定戦に行くことができたのである。
ただ、この場所は彼にとって大きな意味を持つことになった。「上を目指せる力士」そして、「つりで見せる力士」、さらには「プロレスを感じさせる力士」として、多くのファンの期待を背負うことになったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます