現地主人公の過去回帰もの。
圧倒的な文章力で描かれる骨太なファンタジーをあなたへ。
少年オヅマは〈夢〉を見る。
運命の日、母は父を殺す。そうして逮捕されて、絞首刑になってしまうのだ。
この悲劇から紡ぎ出される連鎖を断ち切る為に、オヅマは行動を開始する。
領主の館を舞台に母と妹、そして騎士見習いとして成長していくオヅマが様々な人と交流して生きていくのが面白い。
どの登場人物もこの世界で実際に存在している厚みがあって、だからこそオヅマを中心に描かれる環境のうねりが読み応え抜群だった。
領主の息子らと友情を深め、大切な家族も幸せに暮らしていて順風満帆。それでもふと溢れ出るあの凄惨な〈夢〉の記憶。
温かくて賑やかな日常と、どこか漂う緊張感が絶妙で、最新話に追いつくまで読むのが止まらなかった。
現実と奇妙に交錯しながら、昏き夢はオヅマをどこに導くのか最後まで見届けたい。
あらすじを拝見した時、一度読み始めたらきっと止まらなくなるだろうと予感しましたが、正しくその通りでした。
警告なのか道標なのかわからない昏い夢と、過酷な状況の中で家族を護り、道を切り開こうとする主人公の現実。選択した道と選択しなかった道が交差する緻密な世界観の中、主人公は葛藤を重ねながら、次々に目の前に現れる、それぞれに辛い重荷を背負った子供たちと共に成長していきます。
メインの登場人物たちだけではなく、脇を固める人々の心理や行動の描写も精緻で丁寧なので、複雑なストーリー展開の中でも「今どこで誰が何をしているのか」を見失うことはありません。子供たちをその境遇に追い込んだ大人たちを後ろから蹴飛ばしたくなる衝動に駆られつつ、それでも懸命に生きる彼らに、どうか幸せにたどり着いて、と応援せずにはいられなくなります。ハイファンタジー文学の重厚さを好まれる方は、ぜひ。