第15話 第三ブロック判定

「それでは続いて第二ブロックの集計を行います。バンドはマグネットとレターです。まずフルムーン側、マグネットが良かったと思われる方は声援をお願いいたします」


 ものすごい歓声だった。ワールドルージュを超えたのではないか。

 マグネットのライブは間違いない。それは分かっている。しかしこれほどまでに歓声を集めるとは。


「それではグラビティ側、レターが良かったと思う方は歓声をお願いします」


 これは……レターの勝ちだろう。耳がじんじんする。

 こんなに叫んでいるのに自分の声が聞こえない。きっとみんな同じだ。

 ボーカル経験のある人は私の倍以上声量があるだろう。もしかしてこの状況でも自分の声が聞こえているのかもしれない。

 どうせ聞こえないのだ、私は叫んだ。口を大きく開けたら自然と目が閉じる。バンド名を叫んでおいた。喉が枯れる。


「これはすごいですね。私の鼓膜が破けるかと思いました」


 あの司会者、なにを言っても寒い。音の渦にいる私たちの耳を心配してくれ。

 司会者を含めたスタッフが集まり、審議している。ちょっとどきどきした。私はレターだと思ったけれども、最終的にあいつの、あいつらの判断になるのだ。


「第二ブロックはレター、グラビティ側の勝利です」


 やった、嬉しい。耳がじんじんするけれども、これは現実だ。

 次、次で決まる。喜んだのも束の間。みんなの微妙な緊張感が伝わる。嬉しさ、悔しさ、不安。色々な感情の渦ができている。


「それでは最後のブロックにいきたいと思います。バンドはサイコロジカルとペイルカラーです。まずフルムーン側、サイコロジカルが良かったと思う方は歓声をお願いします」


 サイコロジカル。ライブだけで見ると本日一番だと思う。技術や経験ではない。勢いとセンスとぶっとび具合。このいっとき、現場を支配するには十分な要素だった。

 歓声の音量が、先ほどのレターを超えたのはすぐに分かる。本日一番だった。私も納得だ。けれども私は声をあげない。今日はグラビティが勝つためにいる。

 本当は叫びたい、それほどにライブは良かった。けれども今後のグラビティのために我慢する。


「それでは最後の集計です。グラビティ側、ペイルカラーが良かったと思われる方は歓声をお願いします」


 私は本日一番の声を張り上げる。一声目でもう喉が痛い。拍手も本日一番をだす。

 手が痛い、指が痛い。骨があたる。

 ジャンプしている人がいる。ペイルカラーのお客は時々ガラが悪い人がいる。恐らくその系統の方がジャンプをしている。

 見た目はガラわるだが盛り上がりは人一倍だ。みんなめちゃくちゃに叫んでいる。今なら何を言ってもバレないだろう。

 音の渦のなかにいて、サイコロジカルとどちらが大きいか分からない。

 けれどもペイルカラーのほうが盛り上がっている気がする。きっとペイルカラーの、グラビティの勝ちだ。


「はいっ、みなさんありがとうございました」


 司会者の言葉でとまる。いつまで叫べばよかったのだろうと思っていた。


「これは……難しいですね。互角でしょうか? ルールにもとづきスタッフ二人以上で審議をします。しばしお待ちください」


 司会者が袖に行き、スタッフと話をしている。

 

 審議が必要なのだろうか? 私はペイルカラーのほうがうるさかったと思ったが。

 フロアがざわつく。私と同じ気持ちの人もいるだろうし、そうじゃない人もいるのだろう。


「絶対ペイルカラーだよね」


 私の真横で、恐らくペイルカラーのファンだと思われる女の子が真顔で口にしている。私もそうであると思いたい。


「私もそう思うよ」


 口に出ていた。私はペイルカラーファンの子に同意した。


「そうですよね」


 周りも同意し始める。

 司会者がステージまん中に戻ってきた。


「みなさまお待たせいたしました、結果が出たので発表いたします」


 ついに発表の瞬間が来る。


「ペイルカラーでしょペイルカラーでしょ」


 先ほどの女の子が胸の前で祈るように手を組み呪文のようにつぶやく。

 私も自然と同じポーズになる。もう祈るのみだった。


「第三ブロックの判定ですが、どちらも甲乙つけがたく、同じといたします。よって今回は引き分けです」


 なんだと。引き分け? どういうことだ。勝負はどうなる。

 引き分けってことは今回の移転の話はチャラになるのか? そっと胸が躍る。

 そして淡い期待はすぐに打ち消された。


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