第24話 豹変
二人分の支払いを終えた俺は店の外に出て、久保とゆったり話しながら某複合型エンターテインメント施設に向かった。
「今年の全国ツアーは、こっちの方で公演があってくれるといいね?」
「だね。去年はなかったから今年こそ! って感じだね」
この時でさえ、俺たちのアイドル愛は収まることを知らなかった。
そんなこんなで数分歩くと、目的地に到着した。
「高校生二人で三時間っと……」
機械に情報を入力して屋内スポーツ施設に足を踏み入れた。
「そうだ。久保って運動とかするの?」
いつも教室の隅に居て、運動とは無縁そうな久保。純粋に疑問に思って聞くと、
「中学の時はバドミントン部だったよ?」
久保は真っすぐな目でそう答えた。
「そっか。じゃあ、バドのところ空いたし、バドしようか」
「うん」
俺はラケットを持ってネットをくぐり久保と対峙した。
「じゃあ行くよ?」
甘い高めのサーブを打つと、久保はギラリと目の色を変えて思いっきりラケットを振り抜いた。空を切るラケットの音。シャトルはものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
「マジか……」
学校での雰囲気とのギャップに驚きながら、地面に転がったシャトルを見て呟く。
「ごめん……。シャトルを打たれるとつい……」
申し訳なさそうにこっちを見つめる久保に、
「大丈夫! 俺も相手になるように頑張るから!」
そう意気込んでシャトルを拾い上げて、ぎこちなく構えた。
コートに入って早10分。とうとう俺は、久保から一点も奪うことなく交代の時間になった。
「久保、強すぎ」
「加藤君もなかなかだったよ?」
ちょっと気まずい空気が流れる。
想像以上に久保が強かったこと。俺が想像よりもバドができなかったこと。お互いに原因があってこうなったんだと思う。なんか、悪かったな……。
「あ、そうだ。ドリンク買ってくる。久保はなに欲しい?」
ちょっと罪悪感を感じて明るい声で訊くと、
「私はスポーツドリンク」
久保は静かにそう返した。
「分かった。ちょっと行ってくる」
依然ビミョーな空気に耐えられなくて、俺は逃げるように自販機の方に向かった。
「スポドリ二本」
自販機の中でペットボトルが転がる音が二回響いたのを確認して、取り出し口から二本のドリンクを取り出した。
「あれ、久保?」
振り返ってバドミントンのコートの前のベンチを見ると、そこに久保の姿は見えない。
「どこ行ったんだ……」
ボソッと零して辺りを歩きながら軽く辺りを見回すと、
「やめてください!」
鋭い声が背後から聞こえてきた。振り返ると、久保が知らない男に手を引かれて、どこかに連れて行かれそうになっていた。
「ちょ、マジか」
俺は手からドリンクが零れ落ちたのも気にしないで、ただ男達の元に走った。
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