4話 怒りの鉾先

「何時?」と夏梅が聞いた。

「七時半」蒲が答えると、夏梅は指を折り始めたが、蒲は天十郎を抱きしめたまま「夏梅、五時間」と答えた。


 夏梅は大きな声で「飯!」と叫ぶ。

「ご飯が炊けたら、味噌汁よそえ」蒲が答えると「ああ」夢遊病のように、夏梅はお尻をなでながら、ふらふらと階下に降りていった。

 

 夏梅の姿が見えなくなると、天十郎は蒲に

「あの女がベッドで寝ていた」ドアに向かって指をさした。

「うん、そうか?食うか?」天十郎を見て優しく笑った。



 【蒲と天十郎と一緒にリビングに降りて行くと】


 キッチンカウンターで夏梅がご飯と味噌汁、白菜の浅漬けで朝食をとっている。蒲が「顔を洗ったのか?」と聞くと、首を横に振る夏梅。


「ぼとっ」


 音とともに、蒲が夏梅の元へ走り寄った。

「夏梅、また落としたな!あーあ、俺のボタンダウンプルオーバーシャツ、おい、脱げ」

 蒲が夏梅の着ているボタンダウンプルオーバーシャツを脱がし始めた!

「何をやっている」

 天十郎が叫びながら二人の間に割り込んで、三人でもみ合った。蒲は少し驚いた顔をしたが、天十郎が夏梅との間に入って来たのを嬉しそうにしている。天十郎は夏梅に結構な力で押している。


 僕はすぐに気が付いた。蒲の奴…。わざと天十郎を刺激している…。案の定、天十郎は夏梅を敵視しだした。不安が募る。僕は蒲を睨みつけた。


 すでに、天十郎と夏梅の二人のもみ合いになっている様子をニヤつきながら、見ていたが、僕の怒りの視線に気が付いた蒲は、天十郎を夏梅から引き離すと、天十郎に告げ口するように夏梅の着ているシャツを指さして、

「こいつさ、食事の時は気をつけないと食べ物を洋服に食わすから、ほら、ボロボロと落としている」

「今に始まった事じゃない。子供の頃からだ」

 夏梅は不愉快そうに食卓に戻り、また食べ始めた。


「子供の頃は、胸がなかったからこぼしても、スカートとかズボンの染みだったが、今は胸だよ、胸。一番目立つところに染みを作りやがる」

 天十郎が

「この女、自分の洋服はないのか?」

 夏梅の着ているボタンダウンプルオーバーシャツを座っている後ろから、引っ張るようにつまんだ。


 夏梅の胸の豊かさがクローズアップされた。思わず天十郎は、シャツを離した。夏梅は、ちらっと天十郎を見たが気にも留めぬように、「ある」と着ているシャツを指さした。蒲はイライラしながら

「それは、俺のだ、早く脱げ、染み抜きしないといけない」

 夏梅の頭を小突いた。


 二人の会話が気に入らないのか、天十郎もイライラしながら

「口をちゃんと閉めろ、箸はちゃんと口まで運べ、手の筋肉使え」

 と夏梅を指さした。すると、夏梅は立ち上がり天十郎に向かって

「酔っぱらい!指さすな!蒲の代わりに抱いてあげたでしょ」

「はあ?迷惑なのだよ」

 天十郎が怒りで、ありとあらゆる汚い言葉を駆使して怒鳴り騒いだ。


 そんな天十郎に揺さぶられる事もなく、横目で見ながら食事を終えた夏梅は黙って、食器をキッチンに運び

「うるさい酔っぱらいだ。あと、洗っておいてね」

 一言残し二階に上がった。天十郎は、夏梅がいなくなってもしばらく興奮状態が続き、今度は蒲に食ってかかった。


「あいつ、何だよ?」

「あまり気にしなくていい」

「何を言っているか、わからないよ」

「そうかもね、俺もほとんどわからない」

「ずっと、こうなのか?取材の時は普通に話をしていたぞ」

「仕事だからな」

「いつから?一緒にいる?」


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