第2話 大天使登場
オレは意識が戻った。
仰向けで寝ていたらしい。
あれからいったい、どれだけの時間が経ったのだろうか?
ずいぶん長い時間が経ったような気もするし、あっという間だったような気もする。
なんだか長い夢を見ていたような気もする。
昔のことを思い出していた。
それこそ、しょうもないことだ。
小学生の頃、下校途中に遅くまで道草食ってて親に叱られたこととか。
中学生の頃、クラスメイトの女の子に当てて生まれてはじめて手紙(いわゆるラブレター)を書いたら、翌日、それが教室の黒板に貼り出されていて、皆の
いや、あれは、オレは大真面目だったのだが。
待っていたのは
高校生の頃、何人かの女の子とそこそこ仲良くなることはできたが、いわゆる彼氏彼女の関係になることはできず仕舞いだった。
ゆえに、大学生になった今でも童貞。
なんだ、オレが思い浮かべていたのは、そんなことばかりかよ。
すると突然。
「おい」
近くでオレを呼ぶような声がした。
でも、オレはすぐに返事ができなかった。
声が出ないんだ。
「おい」
もう一度、声がした。
明らかにオレを呼んでいる。
ここに至るまでの状況を思い出してみる。
そうだ、あの時、駅前だったんだ。
バスを待っていたオレは見知らぬ男に刺された。
覚えているのはそこまでだ。
ゆっくりと目を開けた。
「……うっ」
ひどく
「あっ……」
目が
ここは病院か?
いや、それにしては何か様子がおかしい。
部屋というか、オレが横たわっている空間全体が妙に明るい白っぽい光で満たされていて、オレとオレを呼んだらしい男の身体が空間の中にぽっかりと浮かんでいる感じだ。
こういう空間が現実にあるのか。それとも、オレの認知能力が怪しくなったのか。
それでもオレはゆっくり上半身を起こし、三メートルほど離れたところに立っている人影に目をやった。
誰だ?
ネイビーのスーツを着た一見、どこにでもいるビジネスマン風の男だ。
やせ形で、眼鏡をかけていて、知的に見える。
そして若い。
しかし、白衣は着ていないし、医者のようには見えない。むしろ、商社か銀行勤めといった感じ(勝手な想像だが)かな。
そして、見覚えは無い。
「あ、あなたは?」
オレはここで一回、言葉を切ってから続けた。
「え~っと、どなたでしたっけ?」
そう尋ねるとその男は、
「私か? 私は、君たちが『神』とか『創造主』とか呼んでいる……」
と言い出した。
へっ?
神?
創造主?
いきなりそっち系の話かよ。
「あ~、悪いけどオレ、そういうの信じてませんから」
とオレは片手でシッ、シッと蠅でも追い払うような仕草をした。
だって、そうだろう? いきなり目の前に現れた男に「神」だの「創造主」だの言われて、「ははあ~、ありがたいことでございます」なんて調子ですぐに信じることができるか?
今は二一世紀だ。この科学万能の時代にそんな単語をいきなり使うようなやつは、時代遅れの
新興宗教お断り。それとも、かわいそうに、このおにいさん、結構イケメンなのに頭いっちゃってるのか、とも思った。
オレがそんなふうに思ったことは、オレの表情を読んだのか、この男も敏感に察したらしい。
「あっ、信じてないな?」
「そりゃ、そうでしょう! 目を開けた途端、いきなり『私は神だ』とか言われても……」
「いや、待て。私は神ではない。そんな、
「大天使? オレに言わせりゃ同じようなものですよ! で、いきなり大天使とか言われても……」
「信じられないか?」
「はい」
オレはためらうことなく首を縦に振った。
男はオレのそういう返事をまるで待ち構えていたかのように言った。
「では、教えてやろう」
◇ ◇ ◇
第二話まで読んでいただきありがとうございました。
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