その人生は残される。言葉とは違う形で

 我々の文明は文字に依存している。それゆえに私たちは文字で考え、文字で物事を記録する。だが文字は一見全能のように見えて、何かを拾い忘れているのではないか。
 もしかしたら人生の記録手段として刺繍を使うその民族は私たちが拾い忘れた何かを布に織り込んでいるのかもしれない。
 しかし、私たちはそれを文字に変えることでしか理解できない。だが同時にその限界がこの小説に美しい夢想を宿らせる。
 文字と刺繍の間で、未知の何かがゆらめいている。それは愛の印か、それとも幼年期の思い出か。そしてそれが尊いものなら、それを知ってしまった私たちはこれから自分の存在をどう記録すればいいのだろうか? また文字で? それとも・・・・・・
 

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