満月という現実の現象が、内なる別人格を呼び起こすトリガーになっているという設定が面白く、比喩で終わらせずに「現実としての満月」と明言している点に作者の狙いを感じました。自分自身との言葉の応酬を通じて思考を深めていく構成は、レビューでも触れられている通り、知的な緊張感のある読み応えに繋がっています。
「正論は沢山あるけど正解はわからない」という前書きの姿勢どおり、結論を提示せず読者に謎かけを委ねる終わり方が、1,360文字という短さの中でも強い余韻を残します。当初の構想とは違う方向に転がっていったという作者のあとがきからも、書きながら自分自身を見つめ直すような創作のプロセスが感じられました。
答えの出ない問いを抱えたまま、満月の夜にもう一度自分の中の声に耳を傾けたくなる一作です。