第20話 お盆

 お盆の週の土曜日である今日、俺達は家族全員で遠方にある祖母の家に来ている。

 インターホンを鳴らすとおばあちゃんが家の中から出迎えてくれた。


「みんな遠路はるばるよく来てくれたね」


「こんにちは、ご無沙汰してます」


「お母さん、ただいま」


 父さんはやや緊張気味だが、母さんは自分の実家という事もあり、かなりリラックスしたような表情を浮かべている。


「おばあちゃん、久しぶり」


「ここに来るのは正月以来かしら」


「和人と凛花も久しぶりだよ。ところで和人の後ろに隠れてる小さいその子は一体……?」


 おばあちゃんは俺達にそう声をかけた後、夏海ちゃんをの方を見て不思議そうな顔をした。

 夏海ちゃんについてはまだおばあちゃんには一切説明していないため、そんな反応になるのは当然だろう。


「夏海ちゃんの事に関してはこれからお母さんにちゃんと説明するから、とりあえず家にあがらせてくれないかしら?」


「分かった、そうしようか」


 母さんの提案で俺達は家にあがり、部屋の中へと案内される。

 部屋の中にある机の上にはお茶とお菓子が用意されているが、人数に夏海ちゃんをカウントしていないため1人分足りていない。

 そのため夏海ちゃんにはとりあえず俺の分をあげる事にした。

 その様子を見ていたおばあちゃんは台所からもう1人分のお茶とお菓子を持ってくる。


「それで、その夏海ちゃんって子はどこの誰なんだい……?」


 全員が席についてひと段落したところで、おばあちゃんはそう話を切り出した。


「実は……」


 母さんは夏海ちゃんがどこの誰なのか、今ので経緯とともに詳しく説明をし始める。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……まさか私が生きてるうちにひ孫を見れるなんて。長生きはするもんだね」


 夏海ちゃんが未来から来た俺の娘だと話した時にはかなり驚いていたおばあちゃんだったが、特に怪しみもせずに信じてくれた。

 むしろひ孫に会えたことがめちゃくちゃ嬉しかったようで、さっきまでより明らかにテンションが高い。


「ひいおばあちゃん、嬉しそうだね」


「嬉しいに決まってるじゃないか。人生の中でもトップクラスに嬉しいかもしれないね」


 最初はという事もあり少しぎこちない感じで接していた夏海ちゃんだったが、いつの間にかおばあちゃんと仲良くなったらしく楽しそうに話していた。


「あっ、そうだ。ケーキを作ったんだけど、食べるかい?」


「やったー、夏海食べたい」


「分かったよ。みんなの分も取ってくるからちょっとだけ待っといて」


 そう言い残すとおばあちゃんは立ち上がり台所の奥へと消えていく。


「あっ、夏海も手伝う」


 夏海ちゃんもおばあちゃんの後を追って台所へと走っていった。


「夏海ちゃんを見てると小さい頃の和人を思い出すな」


「そうね、手伝うって言ってすぐ走り出す姿とか本当にそっくり」


「確かに昔のお兄ちゃんはあんな感じだったよね」


 父さんと母さん、凛花は夏海ちゃんが走っていく姿を見てそんな事を話していた。

 この間の花火大会の時にも恵美から言われたが、小さい頃の俺と夏海ちゃんはかなり似ているところがあるらしい。

 俺的にはあまりそうは思わないが、他人の目から見て似ているように見えるのであればそうなのだろう。

 そんな事を考えていると、おばあちゃんと夏海ちゃんがお盆にケーキを乗せて台所から戻ってきた。


「パパ、みんな分のケーキを夏海が切ってきたよ」


「夏海ちゃんはちゃんと包丁も使えるんだね。感心したよ」


 家ではよく母さんの料理を手伝っているので包丁を使うくらい朝飯前だろうが、それを知らないおばあちゃんには凄く見えたようだ。

 それからケーキを食べながらしばらく雑談し、おじいちゃんの仏壇に手を合わせた頃にはすっかり遅い時間となっていた。


「時間も遅くなってきたし、そろそろ帰ろうか」


「もうそんな時間になったの。お母さん、またね」


 父さんの言葉でみんなが帰る準備をし始める中、おばあちゃんの家が遠方にある関係で中々来れないため、母さんはちょっと名残惜しそうな表情をしている。


「おばあちゃん、さよなら」


「まだまだ長生きしてよね」


「ひいおばあちゃん、ばいばい」


「みんな、いつでも大歓迎だからまたおいで」


 おばあちゃんはそう言いつつも寂しそうな表情となっており、それに釣られて夏海ちゃんが少し涙目になっていた。

 そして俺達はおばあちゃんに見送られながら車に乗り込むと、父さんの運転で家へ向かって帰り始める。


「お義母さん、元気そうで良かったな」


「ええ、久しぶりに会って顔を見れて良かったわ。まだまだ生きて欲しいから」


「元気そうだったから後10年以上は生きるんじゃないかしら」


 父さんと母さん、凛花が3人でそんな事を話しているのを聞いて、俺は罪悪感を感じてしまう。

 なぜなら俺はおばあちゃんがいつ頃死ぬか、今隣の席で眠っている夏海ちゃんから聞いて知っているのに黙っているからだ。

 夏海ちゃんは自分が生まれる少し前にひいおばあちゃんは死んだと言っていたので、8年後にはもうこの世にいない。

 それを父さん達に話すべきか悩んだが、かなり迷った挙句話さない事にしていた。

 俺が誰かと結婚して夏海ちゃんが生まれるという未来は変わって欲しく無いが、おばあちゃんが8年後に死ぬという未来は変わって欲しいと強く願っている。

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