第9話 本当によくある勇者召喚⑧

 そんな感じでしばらく歩くと、正面に大きな二階建ての屋敷が現れた。

 門から玄関までのアプローチが長く、お貴族様の屋敷だろうかと感心していると——

「こちらが私の屋敷になります」

「……あー、そうですか。すごくお金持ちなんですねー」

 ま、まあ、ここを治めている一番偉い人なんだから、当然といえば当然か。

 門兵が門を開ける。俺は恐縮しながらヤマトさんに続いて敷地内に入っていく。

 っていうか、外から来た他人をいきなり屋敷に案内するってどういう神経をしているのだろうか。

それとも、俺と同じで何か特別なスキルを持っていて、俺が敵じゃないとわかっているとか?

 理由はわからないが、俺にとってはありがたいことなので何も言わないでおこう。

 玄関の扉も開けてくれたのでそのまま進み、エントランスからリビングに通された。

「……あの、俺はここで何をさせられるんでしょうか?」

 屋敷に入っておいて今さらだが、俺が立ったまま問い掛けるとヤマトさんは微笑みながらイスに腰掛けるよう促してきた。

「ご安心ください。何も取って食べようなんて思っていませんから」

「取って、食べる……ははは」

「だから、そんなことは思っていませんから!」

 ……まあ、他にどうしようもないしなぁ。

 俺がイスに腰掛けると安堵あんどしたように息を吐き出しながら紅茶を注ぎ、カップをテーブルに置いてヤマトさんは向かい側に腰掛ける。

 門の前で見た時は凛々りりしい女性で格好いいなと思っていたのだが、今はどこか雰囲気が和らいだというか、年相応と言っては年上に失礼かもしれないが、とても可愛らしい印象を持ってしまう。

「……まずは、マヒロさんの疑問にお答えする必要がありますね」

「それは、どうして俺が異世界から来たことを知っていたのか、ってことですよね」

「その通りです。とはいえ、マヒロさんも薄々は気づいているのではないですか?」

「ということは、やはり?」

「はい。私は——異世界から来た人を先祖に持つ人間なのです」

 やっぱりかぁ。

 ヤマトの漢字は『大和』だろうし、日本名みたいだと思ったのも間違いではなかったようだ。

 とはいえ、俺の名前を聞いただけで異世界人だとわかるものだろうか。

 同じ異世界人が聞けばわかるかもしれないが、ヤマトさんは生まれも育ちもこの世界なのだから。

「……マヒロさん、一つ失礼な質問をしてもよろしいですか?」

「はい」

「マヒロさんは勇者召喚をされたあと、下級職や初級職だったせいで追放されたのでは?」

 俺はまさにその通りだと驚きながら無言で頷うなずいた。

 この質問がされたということは、ヤマトさんの先祖も同じ扱いを受けたということだろうか。

「やっぱり。……マヒロさんが抜けてきた森は、魔獣の巣窟と化している魔の森なのです」

「死の森じゃなくて、魔の森でしたか」

「死の森、ですか?」

「あぁ、すみません、こっちの話です」

 予想が外れて、ちょっとだけ残念だな。

「……魔の森には通常では考えられないような力を持つ魔獣が生息しており、国の国家騎士でも単独では生き残れないと言われている場所なのです」

「あー、だから俺が森を抜けてきたって言ったら、兵士が警戒したのか」

 そんなところに転移させるんじゃねぇよ、あのムカつく王様が!

「……ん? そうなると、もしかしたら俺と同じ運命を辿った異世界人が他にもいたかもしれないってことですか?」

「かもしれません。ですが……魔の森を抜けてここまで辿り着けたのは、ご先祖様とマヒロさんの二人だけだと思います」

「……そう、ですか」

 勝手に召喚しておいて、役立たずだったら魔の森に転移させて証拠隠滅ってことか。

 胸糞むなくそ悪くなってしまうが、俺は本当に運が良かったんだと改めて実感してしまう。……運が100あるからそのおかげなのかも。

「……そうだ! ヤマトさん、お聞きしたいことがあるんですが、いいですか?」

「お答えできることなら」

 ようやく人と出会えたのだ。俺はずっと気になっていた職業について聞いてみることにした。

「俺の職業は鑑定士。城の人には初級職と言われました」

「確かに、鑑定士は初級職ですね」

「それはわかるんですが、鑑定士のあとに括弧が付いて【神眼】って表示されているんです。これは普通ですか?」

「……へっ?」

 どうやら、普通ではないようです。

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