第42話 世界で1番大きい石
『それは困る』
『だって草薙さんと付き合ってるんだろ?』
一瞬躊躇したが、今更なので返信する。
『ああ、ちょっといろいろあって付き合ってる』
『爆発しろ!』
『すまない。それは無理だ。依織が悲しむ』
『暗殺されるなよ』
こうなったら全面的に開き直るしかないが、夏休み明けが少し怖い。
「睦月さんは知られない方がよかったですか?」
「いや、突然でびっくりしたけど、これでよかったと思う」
「そうですか。それならよかったです」
俺はダメだな。依織を不安にさせないと決めたのにすぐ揺らいでしまう。
こんな事では休み明けの学校生活が思いやられるので今から心の準備をしておく必要がありそうだ。
それにしてもあの場面を見られていたなんて恥ずかしすぎるけど、どうせ学校が始まってしまえば依織との関係を隠し通すことは無理だろうから、先に知られてよかったのかもしれない。
それにしても『暗殺されるなよ』とは物騒だな。依織に想いを寄せている男子生徒は多いだろうし、気持ちはわからなくはないが、依織の記憶が戻るまでだから、それまでは仕方がない。
「今度映画以外になにかやってみたいこととかある?」
「睦月さんと一緒なら特になにもしなくても楽しいですよ」
依織のひと言ひと言が強烈だ。
学校では依織とそれほど話したことはなかったので、はっきりとした性格までは知らなかったが、この数日でわかった。
高校生の依織がそうだったかはわからないが、今ここにいる依織はナチュラルに自分の想いを口にするタイプだ。
そして、その言葉の全てが俺に好意的な内容なので、一歩引いていたとしても強烈に揺さぶられる。
「ありがとう。でもいろんなところに行ったりして、刺激を受けた方がいいと思うんだ。家にいても変化が少ないし刺激もないからね」
依織にそう口にしてから、矛盾してるな〜と思ってしまった。
依織にとってはそうだと思うが、俺にとっては全く違う。
家にいても変化しかないし、正直刺激が強すぎるくらいだ。
依織がいることで、俺の日常が日々、非日常化している。依織が部屋に来てから数日が経過したがいまだに現実感が薄い。
そして全く慣れることはない。
今日も、お風呂の時間は精神集中が必要だったし、相変わらず心臓に負担がかかる。
「それじゃあ、水族館とか動物園とかはどうですか? 睦月さんの負担にもならないですし」
「俺は全然大丈夫なんだけど、それじゃあ両方とも行ってみようか」
「はい」
「じゃあ、明日は水族館に行ってみる?」
「はい、楽しみですね」
明日の予定も決まったので、今日は早めに寝ることにしする。
ベッドに入ってしばらくすると、依織の規則正しい小さな寝息が聞こえてくる。
どうやら依織は眠りについたようだが、俺は全く寝ることができない。
きっと俺のことを信頼してくれているんだろうが俺はは意識しすぎて辛い。
いつものように石になるべく意識を集中する。
この数日で石になるイメージは固まったが、石になっても一向に眠れない。
イメージが膨らみすぎて大岩になってしまったところでようやく意識が途切れて眠りにつくことができた。
なかなか眠りにつくことができないので、日を追うごとに大きな石になっていっている気がする。
そのうちエアーズロックを超えてしまうのではないかとさえ思えてしまう。
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