第4話 私越しのダンボール
陽射しも強くなり、目を細めながら歩く人々を観察しながら、やはり気になっていた美大生のブースを横目に見ると、お姉さんは変わらない赴きで黙々と色鉛筆を走らせている。
並んでいる色彩感豊かなポストカードには、ことばも書かれているようであった。
「すみませ〜ん!」と、とても明るい中高生の2人組みの女の子が声を掛けてきた。
「この服は、お姉さんが着ていたものですか?」との問に、嘘をつくこと無く答える。
短大生でもある私は、少し背伸びをして洋服選びをしていた事をふと、思い出した。
サイズは、ちょうど成長も安定してきて、年頃の子が好きな洋服ショップのものである。
「これ知ってるー!」「かわいい!」等と2人で話しながら、合わせあっている姿がとても微笑ましく、はにかみながら見ていた。
すると、2、3枚ずつ手にして「おいくらですか?」と声をかけてくれた。
楽しそうな姿は、お金の話をするには相応しくない状況で、私は500円ずつ頂く事に決めて「500円です!」と言うと、2人はぴょんぴょん跳ねながら「安いー!」とキャピキャピした後、「ありがとうございました!」と丁寧に挨拶をして、ブースから遠のいて行った。
母は、不思議そうな顔をして私を見て、私も不思議な顔で母を見た。
私達はフリーマーケットでまだ買い物をした事がなく、こういった機会を知っていた彼女達に、純粋に尊敬を抱いた。
そして、着々と商品は売れていき、そろそろブースの片付けを始めようとしていた時だった。
2人組みの女の子が再びきて、「すみませ〜ん!後ろのダンボールにはもう服は入っていませんか?」と聞いてきた。
「ごめんね。空なの。」と言うと、凄く残念そうにし、「次回は出店しますか?」と、輝く瞳を4つ並べて期待の姿を見せている。
「ある物だけを持ってきたから、次回は来ないんだ。ごめんね。」と言うと、「可愛い服ばかりだったから、安く買えて嬉しかったです!ありがとうございました!」と、足早に元気よく去っていった。
2人の新鮮な反応に親子で楽しい気持ちになっていた。
その時私は、無闇に洋服を処分しなくて良かったと心の中で思った。
まだ着れるのになぁと感じだ事は間違いではなかったのだ。
これから、どんな服を買って私は生きて行くかは未知だが、お洒落は心を豊かにしてくれる要素。2人組みの笑顔に、ほっこりしながら、また片付けの為に手を動かした。
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