第十二夜 封印されし荒神様

『レオン』


 草原の中、宵闇が訪れる頃。ミモザの花が揺れた。かすかに風で花びらが落つる。


『そろそろミモザの花が見頃だよ』

『レオン、俺とおまえはどんなときも一緒だ』

『ああ、そうだね』

『レオン! ヴァイク! 青いミモザの花があっちに咲いていたわよ』

 友人のエリサが二人に尋ねる。

 エリサは黒髪のボブヘアーを揺らした。如何にも病弱そうな体つきである。エリサは富豪家の姉である。没落貴族のレオンと仲良くしてくれるのはエリサの人柄であろう。


『……レオン』

『あっちに呪われた菩提樹が植えられてるみたいね』

『呪われた菩提樹?』

『なんでも荒神様が封印されているみたいよ』

『なんだよ、それ?』


『古く昔、自分自身を“宮殿”と呼ぶ荒神様がいたのよ。その荒神様は、ニコラス・ウェールズという錬金術師によって封じられた。時は経ち、荒神様とは別に、ある連続殺人鬼が断頭台に立った。ギロチンをかけられる前に、その連続殺人鬼に荒神様が乗り移って、そして死刑執行人を殺したのよ。そこへ、伝説の竜使いの軍人が現れて彼を再び、封印したの』

『そ、……れは、ちょっとな』

 レオンはそう言った。


 ヴァイクは黒き森の道にランタンを持っていこうとした。そこへ、三人に声を掛ける人物がいた。三人をいとも簡単につまみ出した。


『またまた〜。エリサちゃんの怪談話? 三人ともいい? レオン、ヴァイクくん、エリサちゃん。この町では夕刻頃に外を歩き回らないほうがいいわよ。決して好奇心からあの黒き森に近づかないほうがいいわよ』

『……はーい、おばちゃん! レオンもヴァイクもさよなら〜! また明日ね!』

『さようなら、エリサちゃん』

『レオン、時計の針はとっくに八時を回ってるわよ。まだ革命の危ない刻は続いているからね』


 アネットはそう言って夕食の刻だからとレオンを呼びに来たらしい。

 レオンは両親からずっとパシフィッタ町郊外にある黒き森に近づくことを禁じられていた。エリサは夕刻頃になると黒き森に近づこうとするので、近所の大人たちから叱られていた。エリサは高貴な家柄のお嬢様だったが、幽霊や呪いを一切信じない科学的な性格で、肝試しが好きな性格だった。

 そのため不思議なことを信じるパシフィッタ町の大人からは『狙われやすい子』との烙印を押されていた。


『母上、黒き森には何が封じられているの?』

『レオン、あの森にはクランシアでも有名な荒神様が封じられているのよ』

『荒神? 魔導書とかに出てくる魔神ですか?』

『そうよ、もともとは荒神というよりは魔神べリールだったのよ』

『まっ、魔神!?』

『ある軍師様が魔神べリールを黒き森の奥深くの菩提樹に封じたのよ』

『……なんだか僕の町にも近いことが怖いですね』

『レオン、魔法の力は友達にも見せてはいないでしょうね?』

『……もしかして、レオン。ヴァイクくんには魔法の力を見せてるとか?』

『……! いえ、母上には関係ありません。僕と友人関係のことですから』


『レオン、決してあの菩提樹に近づいてはなりませんよ』

『はい、母上』


(そう言えばヴァイクの養父のアスランさんも同じことを言っていたな)


 深い夜の頃に、ベットが横だったアレン『なんだか、俺、胸騒ぎして眠れないんだ。お兄ちゃん、絵本を読んで欲しいな。お願いできる?』とアレンは尋ねる。レオンはアレンの絵本を読んでいた。

 するとアレンは眠くなったらしく、寝床に入っていった。


 すると寝室の窓辺から黒き森に入ろうとするエリサの姿が映った。


(エリサを止めなきゃ!)


『エリサ! 黒き森に行ってはいけません!』

『あら? レオン?』

『あの森には魔神べリールがいる。やめておいたほうがいい』

『レオン、一緒についてきてくれるの?』

『そうじゃない! 黒き森は危険だから行ってはいけないと言ってるんだ!』

『私、男の子に怒鳴られたのはじめて』


(危険だからつい怒鳴ってしまった)


『エリサ、行かないほうがいい』

『私は“貴女は淑女に育つのだから清く正しく生きなさい”って! 男の子で冒険ができるレオンには私のつらさは解らないわ! 友人であるならレオンも私のことをわかってよ!』


『エリサ!』

『私は入るわ! 黒き森に! レオンはもう着いてこないで!』


 物陰に潜んでエリサをつける。

 危険だから、と。


『これが、あの菩提樹? きれいな葉だわ』


 そこには美しい菩提樹が聳え立つ。

 白銀色に輝く月夜と赤く染まる美しい菩提樹に思わずエリサは見惚れた。

 幹のところには『この木には触れてはなりませぬ』と表記されたものが貼られていた。

 南瓜かぼちゃに、ランタンも置かれており、より一層不気味さを増しているようにも思える。

 

『我々こそが、この森の支配者よ』

 閃光を放ち、一瞬でエリサは光に呑まれる。エリサは物言わぬ身体になる。

 エリサから夥しい鮮血がついた。


『……クッククク……! 貴様の血は栄養価が高いな』


『あれが……? 魔神べリール』

 レオンは尻餅をついた。


『クッククク……! 儂はパレスじゃ……! エルヴァン……!』

 レオンを襲ってきた。レオンは斧の柄でパレスから抵抗した。樹に、髪の毛を巻き込んで斧を打ち込み、パレスを固定した。そして炎の異能を使ってパレスを亡き者にしようとした。


『小僧、これで……! 儂を追い詰めたつもりか……? 目障りなあの男の子供め……!』


 レオンはぎゅっと固く瞼を瞑った。すると笛の音がした。どうやらアルベルトが加勢しに来たようだ。


 アルベルトの名工、村雨でパレスに対してを斬り込んだ。パレスは村雨を避けると着地した。エリサの体を借りたものだった。


『小娘の命を奪えたことだしなぁ……? 目障りなあの男の部下が馳せ参ぜたことだしな……! さてさて儂は復活の儀を執り行えたことだし、ここは去ろうかのぉ……』

『逃げるな! 卑怯者!』

 銃口の音が鳴り響いた。レオンはアルベルトにかなり怒られた。


『レオン! 解っているのに、なぜこんな危険なことをした……?』

『申し訳ありません。父上』

『レオン、貴方の命すら危ういというのに、あの方が命をかけて救ってくれたことを無駄にするつもりか? 貴方には魔法の異能があるからこのことを町の者に知られたらスパイ罪となる』

『僕に、そのつもりは……ありませんでした』

『取り敢えずここを去ろう?』


 物陰に隠れてて誰かが見ているような感じがした。

『アネット! レオンが森の魔物を復活させてしまった!』

はいるか?』

『いいえ、アルベルト。私の責任でもあります。この子にはキツく言っておきますからね。レオン、アレンも心配していましたよ』

『取り敢えず、レオンが無事でよかった』


 そこには禍々しい眼が写っていた。


『レオン・エルヴァン……! 貴様を必ず殺してやる……!』


 ハッっとしてレオンは飛び起きた。

 看病されているをされている。レオンは息がハァハァとしていた。


「エルヴァン様?」

「レオン様! ご無事ですか?」


(パレスは記憶に作用する異能を持っていたと聞いたまさか私の思考まで探られている……?)

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薔薇の花束をきみに 朝日屋祐 @momohana_seiheki

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