第十一夜 忘恩の徒
アゴスティーノは自室でのたうち回っていた。アゴスティーノはそのうちに快感を覚える。
「……僕はなにも悪いことをしていない」
(今頃エルヴァン様、やられてるか? 僕はなにも悪くない)
「モンタギュー! いるのか! 出てこい!」
(急いで、城の鬼瓦から逃げなきゃな、でも……)
ヴァイクはアゴスティーノの寝室のドアを蹴り倒して、半ば強引に開ける。エドは初任務を任されており、緊張している。蝋燭で頭を叩きつける様子である。
「アゴスティーノ、どこにもいねぇな」
「クルーガーさん!」
「窓辺から逃げようとしてます」
「アゴスティーノ! テメェが忘恩の徒か?」
「……そうだ。僕が裏切り者だ」
「あんたが裏切り者か……? アチュカルロ公爵の金庫の鍵を盗んだのか?」
「……そうだよ。僕こそが裏切り者だ」
「テメエのせいで舞踏会は怪我人が出たじゃねえのか!」
「僕のせい?」
「そうだ、怪我人が出たのもパレスが出現したのもすべてお前のせいだ」
「僕を責めたらどうなるかは解るよね? パレス様の情報は聞き出せないよ」
「こちらこそ願い下げだね。テメェなんざ死んだほうがマシだ」
「……やはり君も僕のことを責めているんだ。これ以上、僕のことを責めれば君もパレス様の情報は聞き出せないよ。それで良いの?」
「何を言ってる?」
「フハハハッ! 僕の親は新興宗教の教祖だった。新興宗教の教祖の父親と二人きりでパレス様に寝返った街で二人で育った!」
「君たちのことも撃ち殺す」
アゴスティーノはヴァイクに向かって発砲をした。ヴァイクは壁に身を隠して射撃がやむのを待つ。撃ち返した。やがて、庭園に降りたアゴスティーノは自分で頭に拳銃を突きつけて自害した。
「ッ! 死なれたか!」
「僕、はじめて死体に遭った」
エドはショックすぎて気を失った。
アゴスティーノの寝室からマリオ・エスポワールを殺した包丁と血が飛び散った日記が置いてあった。おそらく、マリオをやったのはアゴスティーノだ。マリオの日記には鍵がかけられており、鍵を開けたであろうアゴスティーノは大金を受け取っていた。『我は汝、シャルロッテ・アルルを永遠に愛す』と書かれていた。ヴァイクが読み上げる。
『僕はある使用人に命を狙われている。もし愛するシャルロッテになにかあった場合は自分の資産をすべて、譲渡することを約束する。マリオ・エスポワール』
血が飛んで多少読めない部分もあるが。
相当首元を包丁でやったんだなというのが解る。
「……シャルロッテとの結婚生活はマリオの叶わぬ願いだったんだな」
「これ、なんだ?」
『僕の許に悪魔がやって来る。包丁を持った悪魔が僕を殺しにやって来るだろう。僕が日記に書けることはこれくらいしかない』
『きっと彼はあの日の僕のことと悪魔を赦すだろう。崇高なるあの神ならばきっと罪深い僕のことも赦してくださる。パレス様、私に勇気をください』
『そして神よ、悲しき我のことを救い給え』
ヴァイクはよくわからない文章だと思う。パレスに妖術でもかけられて精神がおかしくなっていたのか。
「……クソッ! なんの情報も得られなかった!」
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