第九夜 舞踏会での一幕・シャルロッテの喜びと吸血鬼

「それでは! 紳士淑女の皆様、今日はお足元の悪いなか、よくおいでなさいました。感謝申し上げます! 今宵は舞踏会です。どうぞ、今日という夜を楽しんで参ってくださいませ」


 レオンはローザを抱き上げる。

 レオンは目眩がするくらい踊った。ローザは慣れている様子だ。レオンも以前に交際していた女性とダンスを踊ったことならある。美しい姫君は胸元に顔を埋める。すると向こうには栗毛の美青年がいる。相手は金髪碧眼の美女だ。レオンも見遣った。相手は燕尾服を纏った。栗毛の青年。容姿は丸い目に白い肌の綺麗な青年であった。


「ローザ!」

「あら、その姿はマリオじゃない?」


「この方が、君の婚約者? 僕の名前はマリオ・エスポワールと申します」

 マリオはニッコリと微笑んだ。

 レオンにはなにかがうごめくものを感じた。

 この人にはなにかがあると……。


「ローザ、マリオは」

「いいえ、マリオは目が血走ってはいないけど、なにか変だわ……」

 レオンは幻でも見たのか? もしかして自分だけに視えるものなのか。レオンは心のなかに燻るなにかを感じる。


「隣の方のお名前は?」

 ローザは問うた。

 シャルロッテは嬉しそうにローザの手を取った。

「ええ、私、マリオの婚約者のシャルロッテ・アルルと申します」

 シャルロッテはショートヘアの髪を巻いている。ドレスは赤のドレスを着ており、見目麗しい貴族令嬢だ。


「ローザ様! 私、結婚するの!」

「えっ? シャルロッテは結婚するのね? おめでとう!」

「先日決まったことなのよ」

 ローザもシャルロッテも話し込んだ。

 結婚の話、家庭の話をした。だが、お相手のマリオは目が血走っている。怪しい。なにかがおかしい。


「シャルロッテなにか変なところはない?」

「……そうね。以前と比べてマリオはあまり喋らなくなったかしら?」

「マリオはなにか変だわ」


「ローザ姫、怖いこと言わないでよ。あの吸血鬼がマリオに乗り移ったんではないし。きっとマリオは疲れてるだけだよ」

「……そ、そう?」

 ローザはそう言った。




「……サウロン様は地方の別邸暮らしですか!」

「もしかして食べすぎて?」

 とある貴婦人が問うた。ちょっと失礼だと思う。

「あらまあ! 悲しいことですね」

「私事ですが、私は地方への別邸暮らしなんですよ。家があの吸血鬼によって経営が傾いたとか?」

 と子爵がぶどう酒を飲みながら言った。

「まさか〜! 吸血鬼なんて伝説の怪物ですからねぇ」

「きっと食べすぎて経営が傾いてしまって居るのでしょう?」

 サウロンは嫌みを言われてはぁと溜め息をついた。レオンはすかさずにサウロンを逃がした。


 テラスにぶどう酒を入れたグラスを持った。

 するとポツホツと話し始まる。


「サウロン様は紳士深く優しい御方です。行きましょう?」

「貴方になら話せる」

 サウロンは厳しい視線を送る。

「サウロン様、地方の別邸暮らしとは?」

 レオンはぶどう酒を飲んで訊く。


「実は……吸血鬼が私の金庫を使用人の誰かが勝手に私の金庫の鍵を。無断で使い始めたんです。最初も、最後も。すべての資産がまさぐり出され、三億クープが私の元から勝手に盗まれてしまったんです。しかも見つけたときにはもう逃亡しててあいつは良からぬやつです」

 とサウロンはボソボソ話し始める。

「ええ、そうですか。それで地方の別邸暮らしに?」

「はい、レオナルド様も気をつけたほうが良いです」

 とレオンは返す、

「勝手に金庫のお金を盗み出されて財産全部使われた?」

「しかもその使用人は近々、クランシアに行くと言っていて発見して、取り押さえようとしたら蝙蝠の羽根を広げた怪物が現れたんです。そのやつはその使用人ごと連れ去っていったんです。あやつはまさに怪物でした」

 とサウロンは言った。


「レオナルド様。こんな話をしたら私は精神的に狂ってると思われるでしょう?」

「……たしかに」

 レオンは顎に手をやった。


「その勝手に金庫の中身を盗み出した者のお名前は?」

「アゴスティーノ・モンタギューという青年です。クランシアの国家警察に取り締まれるなら取り締まっていただきたい」

 まさか。やはりあの青年だったか。


「アゴスティーノと言うやつはかなり危ないです」

「……それが真実ですか」

「だから妻には大変な苦労をさせてしまっているんです。マリアは十キロも痩せてしまって」

 とサウロンは話し始める。

「ここではご気楽になさってください。用がありまして、私はここで失礼します」


(マリオ・エスポワールが、怪しい)




 彫刻のそばでローザはレオンを待っていた。レオンは帰ってこない。すると遠方の友人が手招きをした。


「……ローザ」

「マリオ? どうしたの?」

「君に話がある。こちらに来なさい」


「シャルロッテ、マリオは命令口調なんてしないはずよね?」

「マリオ? 馬鹿馬鹿しい」


 ローザは様子に気づき、シャルロッテを逃がそうとした。だが、シャルロッテはローザの言う事を聞かない。


「シャルロッテ!」

「……マリオ、愛する人よ」

 とシャルロッテはマリオの許に駆けつける。

 レオンは後をつける。壁に身を隠して覗いた。だが、あれは人ではない。マリオはシャルロッテの首元に噛みついて吸血をしている。

 血がついた口元を拭き、レオンに気づく。


「……俺の名前はパレス……。マリオを殺害して、とある公爵の地位もを奪った……」

「パ、パレス?」

 とローザは恐ろしそうだ。は吸血鬼だった。パレスは我を忘れて、シャルロッテを吸血した。レオンを指さしてこう言った。マリオに扮したパレスは懐に持っていた短剣をシャルロッテの首に充てる。


「そこにいるのは……。あいつの息子か? あやつはレオナルド・アッシャーと名乗ったな……? レオン・エルヴァン……本当はあいつの息子だ。没落貴族の……あの男の」

 レオンを指を差して問うた。ほぼ、声は老人だ。

「ローザ様逃げてください。フランソワ陛下の許に」

 レオンは持っていた剣を構える。


「シャルロッテ様を返してください」

「……ならこうべを垂れ、平伏せよ……戦いに敗れればおまえの血をすべて取り込んでやろう……シャルロッテを返す代わりに……伝説と謳われるあいつの息子と……剣技を交わしたい……」

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