第八夜 舞踏会での一幕・サウロンとの談笑

 深々と雪が降る夜、荘厳なクロノワール城の道を歩む方々が次々とお見えになった。国の元首や、国の要人が正装で現れる。レオンは城の窓辺からその光景を見遣った。鏡の前で正装をしていた。


 山積みになった本を見る。この寝室は広い。奥にはシングルベッドが置いてあり、サイドテーブルにはライトが置いてある。そして、その広い部屋を占領しているのはレオンが大学生の頃に買った書籍や、現在も頻繁に足を運ぶ本屋で買ったものや、弟のアレンから速達で送って貰った本が多かった。その本の数はいちいち憶えていられない。


 鏡の前で、ネクタイを締める。

 レオンはローザの婚約者として出席出来るように正装をしていた。髪を片寄せにして、前髪を上げる。


(……父上の形見の懐中時計を使う時が来た)


 レオンは懐中時計を持って行くことにした。寝室をあとにした。城の舞踏会のところへきたレオンはローザはどこにいるのだろう? と疑問符を浮かべる。


「あら? レオン?」

 螺旋階段の端にローザがいた。

 ローザはゆっくりと手すりにつかまって降りる。


 やはり美しい姫君だ。長い栗髪をハーフアップにし、ダイヤモンドの髪飾りで留めている。髪はまるで巻いているようだった。ドレスには花ががあしらわれたブルーのドレス。真珠のイヤリングを付けていた。ローザのドレスは見るものの目を引く。


「ここでは私は『ローザ様』ではなく『ローザ』ですね?」

「ええ、そうよ。ありがとう。レオン」


 ローザの手を引いて華々しく舞踏会の幕は上がる。舞踏会には蒼い薔薇が活けてあった。荘厳なクロノワール城も真鍮のシャンデリアが凍った心を溶かしてくれるようだ。竪琴が美しく弾かれる。演奏者は甘美な表情で弾く。すると背が低い恰幅の良い男性が燕尾服を纏い、レオンに声を掛ける。


「ローザ様、こんなところでご奇遇ですね。ところで青年、貴方は見たことない顔ですね?」

 おそらく身につけているものは高価なものだから身分は格上。ローザに不憫のないように振る舞う。

「私はレオナルド・アッシャーと申します。ローザ・クロノワールの婚約者です」

 レオンは一礼をした。

 偉い身分の方はレオンとローザを見てはふんふんと鼻を鳴らす。


「そうですか。レオナルド様。私はカリティーリャ公国のサウロン・アチュカルロと申します。君もなかなかの美形ですが、ローザ様もおきれいですね。以後、お見知り置きを。では。私は人を待たせておりますのでここまで」

 サウロンは去っていった。

 マリア・アチュカルロは容姿は栗毛の茶色のつぶらなひとみが特徴の太った女性がドレス姿でぶどう酒を飲んでいた。

「……どうぞアチュカルロ様も今日という夜を楽しんでくださいませ」


「ありがとう。レオナルド君。君にも幸運を」


 サウロンが去ってゆく姿が見える。

 妻のマリアの許に行くのであろうか。

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