第六夜 陛下の密談

「レオン君。いま、いいかね?」

 フランソワ陛下はレオンを呼び止める。


「ええ、構いません」

 レオンは城に誰かいないかを見遣った。

 フランソワ陛下はレオンをしっかりと見据える。


「この城には敵国の刺客が一人、存在する。敵国ドラゴニカ帝国は私の娘を狙っている。どちらも貴方の仇敵だ。私が暗殺された場合。城は貴方と家令のバジョット、クルーガーに任せようと思っている。使用人がいつでも安全に逃げられるように城の抜け道を教えておこうと思ってな」

 とフランソワ陛下は顎に手をやった。

 フランソワ陛下は片方は平民出身の血が入ってると訊いた。

 羊皮紙を渡すとレオンを見て話す。

「これはクロノワール城の地図だ。三階の女郎の彫刻の裏には抜け道がある。城が危ないときにはレオン君に使用人全員を逃がしてもらいたい。いざとなれば国民、使用人の為、私は死を覚悟している」

 フランソワ陛下はナイフを持っていた。

 レオンは気概のある王だと思う。フランソワはベランダからクランシア王国の街を一望した。


「ええ、私も父から簡単な護衛術を習っています」

「貴方が王子だったら私の娘を任せたかった。だが、現実は厳しく貴方は執事の身分だ」

 フランソワはそう言い、テラスを見る。

 彼は皺が刻まれた目元は威厳たる王である。


「遥か昔は魔族と人間は共存していたが、ラトウェイと言う人間の王が、魔族を裏切った。それから魔族と人間は仲違いした。魔族は姿を消した」

 フランソワは王冠を光らせる。


「昔、ヴェルペマ戦争の頃、百年前に謎の組織が創られた。名は明けの明星。姿形を自由自在に変えられる。名はパレス。彼は古く昔はアルテミスと言う少年だった。だが、彼は史上最強の悪へと辿った。彼は端正な顔立ちの少年だった。今は見る影もない。パレスが暗躍した闇の時代が有った」

 とフランソワはレオンを見る。

「エゴン・ルヴァルトシュタイン、オイゲン・アーデンブルグ、アロイス・ヴィネンツバルトの力により、パレスの力は弱体化した」

 フランソワは頬杖をつき、眉をしかめる。


「古くのお伽噺だ。ローザはエルフ族との混血だ。娘ローザの存在が、妖魔を信じぬ者に知られれば恐ろしいことになるだろう」


 ますます眉間に皺が寄る。

 フランソワ陛下は娘の命が大切なのだろう。

 フランソワ陛下はレオンを見遣った。


「その時は、娘を頼む」

「ローザ様を?」

 レオンもそう声を掛ける。


「恩に着る」

「ええ」

 不穏な風が吹く。

 遂にこの国も戦いの火蓋は切って落とされた。


「遂にこの国も戦いの火蓋は切って落とされた」

 フランソワ陛下はそう言い、レオンを見遣った。


「この城に在る刺客は聖魔せいまけん、伝説の刀鍛冶職人か創りし、弓張ゆみはりとうを狙っている。弓張刀は今も仕えし、真の主人を探している」


「ええ」

「レオン君」


「明後日は紅い月の夜だ。あの紅い月が夜空から姿を現せば、パレスが現れるだろう。もし、パレスが姿を現せば、娘が狙われる。君に娘の護衛を頼もうと思ってな」

「古く昔、この世界は空と海は繋がっており、竜族もいた」

 フランソワ陛下はレオンの肩を叩き、真実を話そうとしていた。


「明後日は舞踏会だ」

「レオン君。もし、舞踏会にローザの婚約者として出席をすれば貴方の父、アルベルト・エルヴァンが何故革命の中、息絶えたかを教えてあげよう」

 レオンは父の仇敵きゅうてきだと悟った。伝説の戦いの火蓋は切って落とされた。

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