移動手段が馬や地竜しか無い世界で、とある事故から移動用の手段を閃いたジューネスティーンは、約束しているパワードスーツの製造と納品をしなければならない中並行して作るのは余計な手間となってしまう。

　閃いたきっかけは、パワードスーツ用の外装に使う装甲に風魔法を施し、内部発熱を放熱させようと考えていたのだが、その装甲を床に置いておいたところ、シュレイノリアが、間違って踏んづけて魔力を流してしまったところから始まる。

　踏んづけた時に間違って風魔法の魔法紋が発動した事で、僅かに浮き上がり地面の摩擦が無くなり、シュレイノリアは後ろにひっくり返ると浮き上がっていた外部装甲は地面を滑るように走り出し壁に当たり跳ね返る。

　何かに当たる度、方向を変えるが魔法紋が発動中は浮き上がったまま動き回っていた。

　その後、教室でシュレイノリアと一悶着合ったが、学校が閉まる時間になるので寮に帰る事にする。

　風魔法によって地面からわずかに浮いた事から長く移動していたなら、それを移動手段に使えないか考えていた。

　シュレイノリアと歩いていたジューネスティーンは先程の閃きを考えていた。

（あれに人を乗せて走らせられればヒットアンドウェイの攻撃に使える。なら、レオンやアリーシャ姐さんに装備させれば大きな戦力になるな）

　ジューネスティーンが、ホバーボードのアイデアを考えているので、その姿を面白くなさそうに隣を歩くシュレイノリアはチラチラと見ていた。

（でも、ギルドに提出するパワードスーツのパーツも全部完成してないのに、余計な仕事を増やしても仕方がないし、この状態で新しい開発を進めたらパワードスーツの開発に遅れてしまうかもしれないけど、あれをパワードスーツに組み込めれば動きもスムーズになる。でも、とりあえずボードを作るだけなら錬成魔法で簡単に作れるから、魔法紋はシュレに頼んでしまうか）

　横を歩くシュレイノリアを見つつ考えをまとめる。

（でも、ボードは作る必要があるか。……。木材でも構わないけど、金属の方が良いだろうな。でも、ボード全部を金属っていうのは重さが問題になりそうか。それなら、エッジ部分だけ強度を上げて中央部分は人の体重を支える程度に内部に空間を持たせておけばいいな。でも強度は持たせるとすれば三角形にする？）

　歩きながら右手で顎を撫でる。

（そういえば、蜂の巣って六角形の格子状に出来ていたんだよな。土と粘液で作るらしいけど、薄くて意外に強度が有ったんだけど、あれを試してみようか）

「おい、ジュネス。直ぐに飯の時間だ。さっさと着替えて食堂に行くぞ」

　歩きながら考えていたジューネスティーンだったので、シュレイノリアは面白くなかったようだ。

「あ、ああ」

　声を掛けられて寮の玄関に着いた事に気付いた。

　私服に着替えたジューネスティーンとシュレイノリアは食堂に向かおうとすると、レィオーンパードも一緒になり三人で向かう。

「なあ、シュレ。さっき、装甲が風魔法で浮いて動いただろう」

　それを聞いてシュレイノリアはムッとする。

「ああ、私がデングリ返った時の事か。あんな格好を見てエロい事じゃないなら聞いてやる」

　シュレイノリアの制服は膝が隠れる程度の長さのスカートだった事から、装甲に足を取られて後ろにデングリ返ればどんな格好になるか、レィオーンパードにも想像ができたので、気まずそうに二人の話を聞くと少し離れて歩くようにした。

「違うさ。あれで、専用のボードを作って風魔法で移動できるようにできないかと思ったんだ。レオンのように遊撃するなら自身で走るよりボードに乗って走った方が体力的に有利だと思う。どうだろうか？」

　話の内容を聞いてシュレイノリアの表情は緩む。

「そうだな」

　シュレイノリアはよく見ていた訳ではないが、滑って後ろに倒れる時に浮き上がって前に滑るように移動していたのは見ていたので、その様子を思い出したようだ。

「走って攻撃を加えるとなれば、体力の限界が早いけど、走る代わりにボードで動けば体力的な限界は格段に良くなる。それに地面から浮かせればスピードも走るより早くなるんじゃないかな」

「え、走るより早くなるの？　ちょっと、乗ってみたいかも」

　二人の話を聞いてレィオーンパードも興味を持ったので、ジューネスティーンは笑顔を向ける。

「じゃあ、実験はレオンに頼めるね。レオンは運動神経も良さそうだし初めての乗り物だって、きっと上手く使いこなせるようになるよ」

「馬や地竜より早く走れる？」

「理論上は、早くなるはず。風圧は受けるから馬の最高速を維持する速さなら、着る物を布地じゃなくて革製とかにすれば問題は無いだろうね」

「馬の最高速度で走れるなら十分だよ。それに、そんな速さは戦闘時は使わないんじゃないかな。人の走る速度位じゃないと生きた魔物の行動に対応できないんじゃないかと思うよ」

　魔物も攻撃された際、黙って受け入れる事は無い。

　生きようとするなら死を恐れる。

　狩りの際の魔物の対応を考えるなら常に最高速度を出す必要は無く、自身が臨機応変に対応できる速度が好ましい。

「最高速度は移動の時の方が使うんじゃないかな」

　ジューネスティーンは、レィオーンパードの答えに満足そうに微笑む。

「ジュネス。人を乗せて移動する手段となると、ボードの重さに人の体重だぞ。あの時は装甲だけだったから面白いように進んだが、重くなれば浮かせる必要も有るから風魔法だけで簡単に移動は出来ない」

　問題点を指摘するが、シュレイノリアの様子には余裕が伺えた。

「でも、解決方法は見えているんじゃないか」

　分かっているじゃないかというようにニヤリとする。

「ああ、問題ない」

「だったら、魔法紋の開発は、頼むよ」

「ふん！　最初から、そのつもりだったんだろ！」

　仕方なさそうに言うが、内心は嬉しそうにする。

「特に問題は無い。だが、人のバランスの取り方やら、出力の調整やら細かな作業は多くなるはずだ。レオンが実験に付き合うなら、アリーシャが使えるようにする事も考慮できる。それにパワードスーツにも使えるようになるはずだ」

「そうだね」

　食堂に入ると夕食をトレーに乗せて空いているテーブルを見つける。

　ジューネスティーンがテーブルの奥に入ていくと、対面にシュレイノリアが入っていくのでレィオーンパードはジューネスティーンの横に入っていった。

　座るとジューネスティーンは、シュレイノリアに微笑んだ。

「ボードだけならパワードスーツ用の部品を使って明日にでも作っておく。形も構造も考えているから錬成魔法で作るよ」

「あそこの金属は鉄だぞ。そんな物を使ったら重すぎないか？」

　シュレイノリアが口に含んだスプーンを皿に戻す。

「ああ、エッジ部分はぶつかる事も想定しているから厚みを持たせるけど、ボードの中央は上下の板に補強用に六角形の格子を付けようと思うんだ」

「なるほど、ハニカム構造か。いいんじゃないか。それなら、明日にでも魔法紋は考えておく」

　シュレイノリアは、納得するように頷いたので、ホバーボード開発の方向性は確認できた。

　後は、実際に動作確認をするレィオーンパードとなる。

「じゃあ、レオン。シュレの魔法紋が完成したら実験の方は頼むよ」

「うん」

　レィオーンパードは、新しい乗り物を実験できる事が嬉しそうに答えた。