10.冒険者の戦闘試験①
試験は町の中央広場で行われる。
町民からは噴水公園とも呼ばれる場所でその名の通り大きな噴水がある。
その周りは花壇があって、四季折々の花が植えられている。
人々の憩いの場であり、ある程度の広さがあるのでお祭りの会場になったりもしていた。
冒険者の初回試験もある種お祭りとして町民には認識されていた。
「さあお集まり! 新米冒険者の戦闘試験だ! 我がギルドの誇る魔道ゴーレムに挑戦するのは期待のルーキー3人! しかもそのうち一人はエルフときた。美女の華麗な演武は見なきゃ損だよ!」
「俺はルーキーに賭けるぜ」
「じゃあ俺はゴーレムだ」
ギルドの職員が手際よく広場にポールを立ててロープを張り、即席のリングを用意する。
新米冒険者vsゴーレムと大きく書かれた旗をたなびかせて、どちらに賭けるのかと見物客を煽る。
冒険者の戦闘は町中で見れる機会は少ない。
最初は数えるほどしかいなかった観客も気がつけリングをぐるりと囲うほど増えていた。
「誰が華麗な演武を披露するのよ」
ハイドラが白けた目を受付嬢に向ける。まさか見世物にされるとは思っても見なかった。
「あはは。恒例行事となっておりまして……。これもギルドの活動資金獲得のため。どうかご理解ください」
「ここここんなに人がいるとこにもう一秒だっていたくない。帰ろう帰ろう帰らせて」
「だめよ。ゴーレムだかなんだかを倒したら好きになさい」
シュシュミラは半泣きになっていたがハイドラに首根っこを掴まれて逃げられないでいた。
「いいじゃん。みんな応援してくれてんだぜ。俺頑張るぜ」
「ティガさんって見た目ちょっと怖いオレ様タイプなのに。まっすぐ素直な方なんですね。ちょっとタイプかも……」
受付嬢が顔を背けてぽそっとそんなことを言っていた。
「オレ様? タイプ?」
ティガはまったく意味を理解していなかった。
「ああん。鈍感なのも可愛いかも」
「なに発情してんのよ。さっさとゴーレム出しなさいよ」
妙なしなを作る受付嬢をじろりと睨む。
我に返った受付嬢はこほんと咳払いをして説明した。
「失礼しました。ゴーレムは我がギルドの魔道技師が用意いたします。ほら、あちらです」
指差す先に馬車が荷台をごろごろ引いてやってきた。
荷台に鎮座しているのは鉄製の大樽だろうか? 大きな鉄塊がどんと載っていた。
「お待たせしましたな」
その鉄塊の後ろからひょこっと首を出す細身の男。
「あれがゴーレムと魔道技師のハクメイさんです」
男は背は高く痩せすぎと言ってよいほどの細身。禿頭に丸く分厚い眼鏡。そして膝下まである白衣という出で立ちだ。
「ご紹介どうも。いかにも私がこの町一の技師ハクメイです。どうぞよろしく冒険者さん」
無駄に慇懃な一礼。
それがどこか鼻につきハイドラはさっそくこの男を嫌いになった。
「御託はいいのよ。さっさとその不細工な鉄くずを動かしなさい」
「てっ……!? エルフのお嬢さん。失礼な事をおっしゃいますな。この鉄人は私の最高傑作。いいでしょう。その身をもって私の作品のすばらしさを堪能していただきましょうか」
ハクメイは大樽の中央に垂れ下がっている紐を勢いよく引いた。
するとバルンッ!と樽が大きく揺れてボッボッボッボッボッと周期的で小刻みな振動をはじめる。
しばらくすると樽の天辺から甲高い笛のような音とともに大量の白煙が吹き上がる。
「お見せしましょう。大陸でも扱える人間は数えるほどしかいない蒸気機関が作り出す圧倒的パワー。そして巨体を制御する精密術式を内包した魔道コア。これが私の鉄人です!」
ハクメイの号令を受け、大樽の中に格納されていた手足が伸びる。ズシンと地面を揺らして鉄人が大地に立つ。
「さあさあ! 麗しきエルフのお嬢さん。いざ尋常に勝負といきましょう」
ハクメイの挑発を無視してハイドラはティガの背中をずいと押す。
「ティガ。あんた先に行きなさい」
「え、オレ?」
「冒険者になりたいんでしょう? 私たちは別に興味ないもの。付き合ってやるんだからまずはあんたが行きなさい」
「いやハイドラが欲しいアイテムあるからって無理やりオレらを引っ張ってきたんじゃん」
「いいから行け」
背中を押されリングに押し込められるティガ。
「わかったわかった。オレが一番でいいよ」
鉄人もノシ、ノシ、とリングに入ってくる。
「なんですか? 最初はいけ好かない獣人の大男ですか。まったくなにを食べたらそんなに筋肉ムキムキになるんですかね。暑苦しい男はモテませんよ。今の時代はスマートな男性が好まれるのです」
「そんな……。オレだって好き好んででかくなったわけじゃ……」
大人に真っ向から悪口を言われたのははじめてだ。ティガがしょげる。
「ねえハイドラ。バカ猫行かせてよかったの? 大人の身体になって身体能力は上がってるかもだけど、あのティガだよ? ちょっと小突かれただけでも泣いちゃうんじゃない?」
「別にあいつが負けても私はどうでもいいわ。ただの様子見役で捨石だもの。でもそうね。このまま負けて泣かれても寝覚めが悪そうだし、少しは手伝ってやってもいいわ」
リングで睨みあう両者。というよりティガが一方的に鉄人を見上げる。鉄人は顔らしいものはなくブルブルと震えている。
「ティガ! 先手を取って速攻で倒しなさい。相手の攻撃を受けちゃだめよ」
素直にコクコクと頷くティガ。
「そんなんでアドバイスになってるの?」
「実際それ以外ないでしょ。あいつデコピンでも泣くんだから。なにかされる前に倒すしかないのよ」
ギルドの職員がリングの外から声を張る。
「最初の挑戦者。冒険者ティガの試験を開始します。ゴーレムを倒せば合格。冒険者が敗北を認めた時点で試験は不合格となります。また試験に立ち会うギルド職員の判断で冒険者が戦闘続行困難と判断された場合も同じく失格となります。それでは……。開始!」
カーンとゴングの音が鳴る。
ご丁寧にそんな小道具まで用意しているのか。ハイドラはため息をついた。
観客が盛り上がり、賭けた方に声援を送る。
「なあハクメイさん。これほんとに殴ってもいいんだな?」
「ええ。かまいませんよ。たかが初心者用の斧の一振りで私の鉄人が倒れるとも思えませんがね……。いけ! 鉄人! 女の子二人もはべらせていい気になってるクソガキに社会の厳しさを教えてやりなさい」
ゴーレムが動く。鉄製の拳を大きく振りかぶりティガに突進する。
「おせぇ!」
鉄拳が振り下ろされるより速く、ティガがゴーレムの懐に潜り込だ。
そして斧を下段から力一杯に振り上げる。
バキンッ! と音を立てて斧が砕ける。
バトルアックスの扱いなど知らない素人の力任せの一撃だ。
元々使い古された貸し出し用のだっただけにガタもきていた。
雑な扱いと無茶な力の入れ方では壊れてしまうのも当然のことだった。
しかしその一撃は鋼鉄製のゴーレムの足が一瞬宙に浮くほどの威力だった。
そして斧が打ち込まれたボディは割れ内部構造にも大ダメージを与えていた。
ゴーレムは地響きとともに地面に倒れる。
ギギギとわずかに痙攣したが、ボシューと大量の白煙を上げてそれきり動かなくなった。
「冒険者ティガ、合格!」
「私の鉄人ー!」
「おおおおお!」
「一撃だぜ!」
「さすが冒険者さんだ! 信じてたぜ!」
「ふざけんなよ鉄くずがよ! 金返せポンコツ!」
歓声と怒声とがない交ぜになって広場に響き渡る。
「ハイドラ! シュシュミラ! オレ勝ったぞー!」
無邪気な笑顔で二人に駆け寄るティガ。
「はいはいすごすごい。なによ大したことないじゃないの」
今度はハイドラがリングに入る。
「次は私よ。さっさとそれ起こしなさい」
ハイドラが弓を構える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます