第21話 組み立て - perspective C-3

 大野にコクピットを支えてもらいながら、吉田は計器とセンサーの配線を繋いでいった。その後、操縦桿を機体に据え付けた。尾翼の実際の作動確認をしないといけないな。テールの先と操縦桿の距離があるからこの作業は少しややこしい。


 どう配置して動作試験をしようか考えているところに、西村がきた。

「吉田先輩、テール周りいかがですか?テールと胴体が結合できるなら、それをやって主翼を乗せたいと思いますが・・・?」

「おう、早いな。FBWの動作確認がまだ十分じゃ無いんだ。テールはまだつなげない。そっちは待機になっちゃうか?」

 吉田は頭を掻いて答えた。

「分かりました。大丈夫です。FBWの作業の間にまず外翼を繋ぎますから」

「悪いな。それだと胴体と主翼結合するとき大変だと思うけど」

「みんなやってきたことだから大丈夫ですよ」

 西村は主翼の方へ戻っていった。


 主翼は順調だな・・・二人に任せていれば当然だ。さて、急がなければならないな。操縦桿は大野さんに操作してもらって確認しよう。コクピットとテールの間の延長ケーブルはとどくだろう。

「大野さん。テールを完全に接続する前に尾翼の作動試験をします。ちょっと手伝ってもらえますか?」


* * *


 吉田は主翼の様子を一瞥し、滑走路にまたがって伸びる姿を確認した後、メンバーに向かって声を掛ける。

「テール準備OK、コクピットと接続したい。4人くらい回してほしい」

 西村が応える。

「主翼はほぼ接続が終わってスタンバイです。中央に一人、翼端に一人づつつけてます。それじゃ、私と中川先輩、石橋と藤井で手伝います。」

「頼むよ。」


「それじゃ、男性陣、テールの配置に付いてください。吉田先輩?」

 中川が促す。

「それではテールを持ち上げます。せーの」

 吉田のかけ声で、吉田、西村、藤井は尾翼の付いたテールを頭の上まで持ち上げた。コクピットは中川と石橋で支えている。

「では繋ぎます。FBWの配線接続OK」

 藤井の声がして、テールが前進してコクピットと接触した感触が伝わってくる。吉田は少しずつ上下左右にテールを振ってみて感触が緩くなる点を探ってみる。

「ちょっとテールが下がりすぎていますね」

 中川のアドバイスに従って吉田がテールをすっと持ち上げると、するっとテールが入った。が、まだ完全には嵌まっていない。ちょっと振ってみても緩くなる点は分からない。

「しょうがない。少し回すか。それでは左右に回しながら差し込みます。合図で左右に回してください。最初は右から・・・せーの、いち、に、いち、に」

 合図により3人が掴んだテールが回る。尾翼も大きく回る。右左右左と繰り返し回すうち、ほんの少しづつテールが差し込まれとうとうすべて差し込まれた。

「それじゃねじ穴位置合わせます。ちょっとだけ左方向へ回転・・・はい。OKです。」

 吉田は上下左右4本のネジを締め、テールを結合した。


05:00

 既に空が白み始めている。

 西村が胴体と主翼の結合について説明する。

「それでは主翼を胴体に結合します。主翼を支えるのは男性陣にお願いします。吉田先輩、胴翼結合のピンの装着お願いします。僕と藤井が中央と2番のところを支えます。石橋と早川君はフライングワイヤのマウントで支えてください。大野さんと佐々木さんは翼端監視をお願いします。傾いたときや風で暴れそうなときは教えてください。中川先輩と榎本さんは胴体を動かすのをお願いします。」

 各員が配置につく。それを確認した西村が合図を叫ぶ。

「それではいきます・・・せーのっ!」

「お、重いなー」

 吉田と中川はコクピットを主翼の下に押し出した。

「吉田先輩、主桁マウント位置合わせました。ピンお願いします」

「前後位置OK、西村ちょっと上げて・・・ヨシ、左ピン入った。右をやる・・・藤井、半歩下がって。あれ、硬いな。」

「まだですか~」

「もうちょい。藤井、ちょっと下反。ヨシ。はいった。」

 パチッと音がしてピンが入った。

「主翼支えの人、お疲れ様です。フライングワイヤのマウントの二人はロール制御お願いします。」

 西村の声がする。吉田は主桁ピンの固定を済ませ、テールマウントの確認をした。

「主翼を回してアラインさせよう・・・えーと、石橋が一歩前、早川君が一歩下がる形で主翼を回します。せーの」

「ちょっと行きすぎ。少し戻して・・・それでOK」


 中川がフライングワイヤを持ってきて確認をする。

「今日はターンバックルあり、ですね。」

「そう。前回一応つけたけどまだ長さは分からない。地上ですこしパツンパツンになるくらいがいいのだけど、これはすこし緩い。計算上ではあってるはずだけど。今日は主翼撓まして、本当にいいかどうか確認したいし、必要により調整したい。」

「分かりました。」

 中川と西村がそれぞれワイヤを持って作業にかかった。その間に吉田は電装系の配線を確認する。主翼からの機速計の配線を繋ぐと計器にわずかな風の数値が現れた。西村の注意喚起が聞こえる。

「フライングワイヤを張りました!みなさん、これより主翼の下を通るのは細心の注意を払ってください!」


 滑走路の先の地平線がひときわ明るくなり、太陽の光が差しこんでくる。


 吉田はクランクを回し、チェーンがスムーズに回ること、計器に回転数が出ることを確認した後、翼箱へ向かいプロペラを持ってきた。吉田は機体の前面にたち、駆動シャフト先端にプロペラハブを差し込みネジで固定した。固定が終わったことを確認して、中川はクランクをベルトで固定した。

「プロペラもつけたし計器も大丈夫そうだ。ちょっと片付けてくる。」

 吉田はツールボックスをもって機体を離れた。


05:45

 TF-1の機体は組み上がった。主翼の前縁に朝日があたり、翼を被うフィルムにオレンジ色が薄く反射している。

 組み立てで少し散らかった機材を片付けている吉田のところに西村が来て伝えた。

「機体OKです。飛行前の最終チェックも中川さんが完了させています。中川さんは加藤君呼びに行きました」

 吉田も頷いて応えた。

「いよいよだ」


「夜と昼の狭間で 3 滑走」に続く。


テストフライトの様子は、人力飛行機製作集団CoolThrust様、その他のHPを資料としました。

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