第9話 ケンタウロスからの逃走劇
ドッカンドッカン後ろから何かを破壊しつつ!段々近付く音がする。
そう、ケンタウロスが洞窟内にある、鍾乳洞の部分に逃げ込んだ私達を追って来ているのだ。何故ここまでの執着心があるのか、不思議でならない。ある程度、引き離せば普通の魔物や魔獣だったら、諦めて何処かへ去って行くだろうに。先程、雷魔法で暫くの間拘束したのだから、正気に戻って元の住処に戻るであろうに。
一体何が原因なのだろう?
怒りに我を忘れ、瞳が赤く変化している魔獣は正直、恐ろしくて仕方ない。しかし、そんな恐怖を呑み込み、唯走って逃げるしか出来ない。
「何でこんな事になっているの!?」
私はユリアンナに逃げながらも、問いただす。
「わかりませんの。急に雄叫びが聞こえたと思った時には、ケンタウロスの大きな姿が見えて、私達の方へ突進してきたんですもの。私はその時、一角ウサギを狩っている最中でしたし。」
ユリアンナは走りながらも!身振り手振りで状況を伝えた。後ろを走るポーシャを見ると目が合った途端、明らかに怪しく目を逸らした。
「ま……まさか、ポーシャ、何かやらかしていないでしょうねぇ?」
私は大きな声を張り上げて、ポーシャに問いかけた。貴族らしからぬ物言いだが、今はそんな事を言ってられない。
「……あ〜。そ…それはぁ、もしかしたらアレだったかもしれませんわね?」
ポーシャは走りながらも、何かモジモジしている。何があるって事ね。
「「ポーシャ!!?」」
あたしとユリアンナは走りながらふり返り、ポーシャを睨み付けた。
「……ゴ……ゴメンなさい!!あのその・・・何だか遺跡のような庵のようなものがありまして、狩にも飽きてきちゃいましたし、寄りかかって休憩していたんですのよ?そしたら、何か急に石がゴゴゴゴって動き出しましてぇ、中から何か黒いものがピョンて飛び出して来ましたの。」
「・・・黒いもの?」
「ネズミかと思って構えていたら、たまたま通りかかったレッドホースが、その黒い物を飲み込んじゃいましたの。」
そ…それは嫌な予感が。
「見る見る内にレッドホースが大きく、変化してしまいまして、最後にはあんな感じにねぇ。本当!ビックリしますわよねぇ。」
そういうと、ポーシャは後ろを振り向いて指差した。
ケンタウロスは棍棒を振り回し、鍾乳洞のツララだの岩を壊しながら追いかけてくる。
……う・・う〜む。
それでは逃げても無駄なのではないかしらと、不安になった。だいたい、洞窟の中まで追いかけて入って来るだなんて。何処に逃げようと追いかけて来るのなら、むしろ何とか倒す方法を考えるしかない。
「ねえねえねえ!ここってただの洞窟か鍾乳洞かと思ってたんだけどさ、あちこちに人が入った形跡があってさ。もしかして、コレって例の修羅のダンジョンじゃない?奴が壊した岩のカケラが、何故か地面に落ちると消えて行くのよね。」
リリアナが恐ろしい事を言いだした。
ううん。何となく気が付いていたけど、あえて気がつかないフリして触れないようにしていたかもしれない。
う〜。こうなったら腹を括るしかないか。
「皆、一斉に魔法をかけて反応をみよう!もう逃げきれないのなら、奴を倒す方法も考えないと。お互い相殺されないよう、魔法の種類を合わせよう!私は土魔法で、ケンタウロスの足元を沼地にしてまずは走れなくするわ。」
私は皆に方針を伝えた。
相殺というのは、例えば水魔法に対する、火魔法のように相対する魔法を同時に使うと、互いの魔力が相殺され威力が落ちてしまうというもの。
土魔法と植物魔法は相性が良いので、相殺とは反対に威力が増したり、付加価値がついたりするので、
仲間と一緒に魔法陣を繰り出す時は相性や連携をとって効率的に効果を上げる事が大事だ。
「では、私は植物魔法で足元に絡みついて、更に転ばしましょうか?」
ユリアンナがそう提案する。
「私は氷魔法で槍を作って、倒れたケンタウロスに落としますわ!」
とポーシャが言う。
「ではあたしは光の光線でお腹に穴あけとくよ。」
とリリアナが恐ろしい事を言った。
「「「光線で穴開きますの?」」」
一斉に突っ込んだ。
光魔法なんて暗闇を照らす「ライト魔法」とか、植物に光を当てたりする「光合成魔法」とかしか、使った事がないわ。
リリアナは随分光魔法と相性が良いのね。
所が、私がケンタウロスの足元に土魔法で「泥濘」と唱えると、更に怒りだしたケンタウロスは鍾乳洞の氷柱をこちらに向けて飛ばし始めた。私が使った魔法だと、ちゃんと解っているようだった。
「うわっうわわっ!!痛っ!!」
ケンタウロスが怒りに任せて暴れると、細かい破片が腕や額に破片が飛んできた。大きなカケラを避けながら、防御魔法を使った時は遅すぎて膝や脛にもあたって怪我をしてしまった。
慌てて、ユリアンナが植物の蔦をケンタウロスの足に絡めて転ばそうとするも、中々倒れてくれない。
ブモォォォォォォォォォォォォ!!
ケンタウロスは一際大きな雄叫びをあげた。
ポーシャが氷魔法で氷の槍をケンタウロスへ投げる。しかし、ケンタウロスは棍棒で氷の槍を打ち返してきた。打ち返した氷の槍が鍾乳洞の天井にぶつかり、私達の方へ岩や石が落ちて来る。
「……痛い痛い痛い!!」
ポーシャは上手いこと交したが、私は頭に岩のカケラが落ちてきた。
ブモォォォォォォォォォ
ケンタウロスは雄叫びをあげたと思ったら、ドッカンドッカンとコッチに向けて、またカケラを飛ばしてくる。
ま……まずい、ケンタウロスの周りにあった障害物が無くなりつつある。奴は一気に走って近付いてきた。何故か岩を背中に背負っている。
え??
ち、ちょっと何しているの?まさか、ソレを投げようとかしているんじゃないでしょうね!!!
「こんなはずではなかったのにぃ!」
「ミギャヤァァァァァ〜!!!」
「怖い怖い怖いィィィィィィ〜ヤァ〜!!!」
「ヒョワァァァァァァァァァ!!!」
何故か今、私達は涙目で魔王の森の奥にある修羅のダンジョンでA級魔物から、全力で逃げ回っている。
ブモォォォォォォォォォォォ!!!
「こらぁ〜!!コッチに来るなぁぁ!!」
リリアナは走りながら、光魔法をケンタウロスに当てている。眩しさに眩んで私達を追い回すのを止める事が出来るだろうか。
「あたしステーキは好きだけど、アンタみたいな筋肉質な男は好みじゃないのよぉ!」
リリアナは掌に光魔法を集めていく。
段々濃度を増し、これ以上集めたら魔力爆発するのではないかとハラハラする私達を嘲笑うかのように、迫り来るケンタウロスに向かって光魔法を発射した。発動というより、発射って感じだったのよ。
「光魔法『レーザー光線』 」
リリアナの掌から尋常じゃない光の放線がケンタウロスの胴体を突き抜けた。まるで暗い洞窟が日中のお日様のように、辺りを暖かく包む。
あまりの眩しさに瞼を開けてはいられない。
ブモォォォォォォォォォォォ……
……
…。
お腹に穴があいたケンタウロスは、耐えきれるわけもなく、その巨大な図体が後ろに傾き、勢いよく後ろ向きに倒れた。
ズジィィィィィィィンン!!
地響きが辺りにこだましてして、自身の体にまで震えた。
「ヤッタネ!一丁上がり〜!」
私達は恐怖と光魔法の凄まじい威力に腰が抜けたように倒れると、その場から立てなくなっていた。
リリアナは万歳!万歳!と腕を振り上げ、ピョンピョンと1人、その場でジャンプして、オーバーな位に喜びを表現していた。
そして、私はそんなリリアナや皆の無事を確認すると、安心してしまったせいで気が緩み、頭の傷の痛みからか、あろう事がまだダンジョンの中だというのに、その場で意識を手放してしまった。
多分、気絶しちゃったんだと思う。
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