君と違和感
鵙の頭
1.存在
1話目
俺はどうして、この世界に生まれたのだろう。それがずっと分からないままでいた。
「あ、部室開けてくれてたんですねー。せんぱーい、お疲れ様でーす」
分からん、分からん、分からん。なぜ俺はこの世界に生まれたのだ。なぜ俺はこの世界に生まれ、この世界で過ごし、この世界で死ねばならんのだ。
それがずっと、十八年生きてもずっと、分からないでいた。
「二月つってもまだ寒いですねー。暖房付けちゃいますよ。こんな寒さじゃ指が動きませんもん。てか先輩、私が来るまでよく暖房付けませんでしたね……」
それが分からないでいるから、俺は小説を書くことにしたのかもしれない。
この、公立
それがなければ今頃、内側から溢れるこの情熱をぶつけることができず、どうにかなっていたかもしれない。
どうにかなる。例えば、暴力を振るったり、首を吊ったりすることだ。
……本当にやっていたのかは分からない。勢いでかっこつけて言ってしまっただけな気は、ぞんぶんにする。
「先輩、進捗はどうですか? つーかこの時期によく部活来ますよね。入試全部受け終わったか知らないですけど、授業もないのに部活だけ来るって、まぁ部活愛の強い人だこと……」
しかし、やはり問題は文頭に戻る。どうして俺は、この世界に生まれてきたのだろう。この問いに関して、やはり俺は答えを出すことが出来ない。
試験などで問われることには簡単に答えを出せるのに。答えが用意されているものを当てるのはあんなにも簡単なのに。
この問題に回答するのは、一筋縄ではいかないのだ。
学校では教えてくれない。否、教師では答えを知らない。いや、そもそもこのような問いがあるのかすらも知らないかもしれない。
だから、やはりこの問題への答えは、自分で出すしかないのだろう。
俺自身が考えて、考えに考え抜いた珠玉の一答を……!
「てか先輩、聞いてます? いや、聞いてませんよね? またいつものように何かよくわからないことに悩んでるだけですよね。人の言葉に耳貸さないってことは、どういうことかっていうのはこの一年間で身に沁みてますよね?」
スパコンというかノイマンもびっくりの速度で様々な思考を辿っていた俺の頭脳は、耳を通して聞こえたヒュンという風切り音によって思考を停止した。
俺は椅子に座っている。そのまま、上半身を屈ませてデスクの上のキーボードの上に耳を置く様に頭の位置を下げた。
ほんの数コンマ前まで頭があった場所を、プラスチックのバットが通った。
「おー! 今の避けますか!」
バットを振った本人は、驚いたようにこちらを見ている。
セーラー服のボタンはきちっと閉め、リボンを着けて、スカートはしっかり膝下まで長い。何一つ規則を破ってない制服を着こなしている、黒髪ロングの女性。
見た目はどうからどう見ても優等生清楚な女子高生である城本玄実は、さっき俺をぶん殴ろうとしたバットを今度はこちらにピシッと一直線に向けて、元気よく喋った。
「成長しましたね!」
「唐突にバットを振られて避けるようになったのは成長じゃない。調教だ」
または伝達神経の発達だ。成長みたいなポジティブな要素を含んだ言葉を使うな。
「じゃあ、調教しましたね!」
「違う。したのはお前だ。俺は被害者だ」
調教しましたねって文章はなんだ? 文法的に全く間違っていないなのに理性が受け付けない。やはり人間は理性で生きている生き物なんだと思い知らされる。
「じゃあ、調教されましたね!!」
「調教されましたねって語感はなんだ!? その文章は笑顔で人に発していいものなのか頭ん中でよく考えろ!!」
俺はこの高校生活を三年間、変わり者というレッテルを貼られて過ごしたが……。
どう考えてもコイツの方が変わっている……。
いや、それよりも何より腹が立つのは。
「大丈夫です! 私は先輩の前でしかこんなこと言いませんししませんから!」
こいつが一年の間では常識人という扱いを受けている事だ。
なんだこの俺とコイツとの待遇の差は。
相対的差別だろ。
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