20話 #808080
最後の話を聞きたい人物は、相手の方から「話がある」と連絡が来た
こちらにとっては好都合でしかないので、即座に承諾の返事を送った。
指定されたのは案の定、アスタリスクが所属している事務所だった。
場所は知っていたので迷わず着けた。
見知った顔の受け付けの女性に要件を話すと、約束のフロアまで案内され
今度は会った事のない若い女性が応札用の部屋まで案内してくれた。
こじんまりとした部屋だが、他の人達と話した場所に比べて煌々と明るい場所で、同じフロア内にも人も沢山居る
こんな所で話して良いのかという焦燥感にも罪悪感とも近いジリジリと迫る様な感情が湧いてくる。
少し待っていると紺のカーディガンを羽織った綺麗な女の人が緑茶を淹れてくれた
その人が部屋を出てすぐ、私をここに呼び出した人物が入って来た。
アスタリスクのマネージャー
灰崎さんだ
名前に合わせてなのか知らないが、いつもグレーの少しヨレたスーツを来て、頼りなさ気な雰囲気だが、眼鏡の奥の目は妙に鋭くて
仕事が出来るのか出来ないのか判断しずらい人物だ。
だが、実際アスタリスクをメジャーデビューさせたのだから、全くの無能という訳ではないのだろう。
灰崎さんは「あ、どうも」という雑な挨拶を述べながら椅子に座ると、早速本題を切り出した。
「えっとですね、本日お呼びたてしたのは、先日松蒲が足を刺された件に関してなんですが」
「はい」
「えっと、ご存知で…?」
「はい」
「貴方が関与してる、という事ですよ…ね?」
「はい」
尋問とも言えないあっさりとした会話
灰崎さんは頭を掻くと、フーっと長く息を吐き、覚悟をした様に話し出した。
「あーっ、その、お気持ちは分かるんですが、一応まだ本社のタレントですので、この様な事は今後は……って、まぁ今後は無いですよね」
「そうですね」
「あの、こちらも大事にるするつもりはないのでね…その松蒲に関しては安心して欲しいんですが…」
「浅葱さんと柳さんにはもう会いましたよ」
「え!?」
灰崎さんが1番気にしているであろう要件を先回ってあげた親切のつもりだったが、予想より驚かせてしまった。
「たく、アイツら何にも報告しねぇし…」とブツブツと独り言を言っている。
「そう、でしたか。ならもうね。会う事もない、ですよね」
「まぁ…そうですね」
「アイツらは…その…何を話しましたか?」
灰崎さんは恐る恐る訊ねて来た。
私は松浦が話た【彼女に入れ込んで飛んだ説】
浅葱が話た【メンバーを見限って脱退説】
柳が話た【薬物使用を事務所が隠蔽した説】
を掻い摘んで要点だけ話た。
話を聞いている間、灰崎さんは頭を抱えたり、天を仰いだりしながら「あー…」とか「うぅー…」とか唸っていた。
一通り話終わると
「わ、…っかりました」
と返答はしたが、辞書の「心ここに在らず」の語句の挿絵になりそうな程、あからさまに上の空な状態だ。
「あの灰崎さんは…」
と話しかけたが、それだけでも
「はいっ!?」
と飛び上がる程大きな声でリアクションされて、こちらまでビクッと跳ね上がってしまった。
私は心拍が急上昇した胸を押さえ付けながら続ける
「灰崎さんにも伺いたいです。理由を」
「いや…僕からは話す事は…」
「一応…ですよ」
「わ……分かりました」
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