5話 メンバーカラー黄色 ヒロの証言②
コウは本当にいい奴だ。
それも明るくて真面目で優しくて――っていう絵に描いたようなタイプだ。
それはもう人間味がないと表現した方が的確なくらいで、俺には言語や文化圏が違う宇宙人のように見えた。
なんていうか取っ掛かりがないというか、掴み所がないというか
親しみやすさがなかった。
そしてコウは、性格は良いがそれ故に要領は良くなかった。
コウは共演者やスタッフの、本当に誰にでも全く同じ対応だった。
だから性格の良さは直ぐに伝わり、好かれはするが、いつもその後が問題だった。
分け隔てがないというのは人格として美徳だが、芸能界でもそうとは言い切れない。
偉い人とそうではない人では態度を変えなければいけない場面もあるし
好意がある人、悪意がある人、悪意を隠して近づいて来る人
その全てに同じ対応では上手くいかない。
コウは特に「好意」を持たれた時に問題があった。
好意で近付いて来る人間をかわすのが極端に下手なのだ。
誠実さのせいで誤魔化すとか、はぐらかす様な対応をしないせいで
誘いの断り方が問題で小さなトラブルが起き始めた。
トラブルと言っても共演NGを食らう程度だったが
好意を否定され捻じ曲がった悪意は、最初からの悪意よりタチが悪い。
明確な執着心のある嫌がらせをされる事も増えて来た。
コウが好かれる事で起きるこの問題に、メンバーの自分達が巻き込まれるのは、皆いい顔はしていなかった。
中でも俺はそうやって沢山の人から持て囃されるために芸能界を目指し
その為にアイドルなんて下らない事やってるのに
俺が人生をかけて求めているものをコウは「必要ない」と一蹴した。
大真面目に事務所の規約の恋愛禁止を守り
声を掛けて来る誰にも見向きもしなかった。
俺が此処に居る目的を、コウは馬鹿にしているも同然だ。
その態度が、死んでたはずの俺の嫉妬を蘇らせる事になった。
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