流れる血は記憶となりて
- ★★★ Excellent!!!
読後感の凄まじい作品でした。もちろん読み進めている間も物語や言葉の一つ一つが次々と胸に刺さってくるのですが、そのすべてを受け止めた先の余韻は他作品では味わうことのできない奥深さがありました。作品の要となる人物は職業や生活背景は違えど、自らの父と重なる部分が多くあり、それが読後感を一層引き立たせていたのかもしれません。
一言では言い表せない人間性。それを如実に描いたのが本作の最大の特徴といってもいいでしょう。なにかに拘泥し、人知れず研ぎ続ける心という刃。ときにそれは誰かを傷つけることもあれば、誰かを守ることもある。そして、最後は生ける者へと託していく。そうして不滅の存在へと昇華し、記憶を内包した血となって、脈々と親から子へと受け継がれることになる。そんな一連の流れを本作は、ある家族の出来事を通して追体験させてくれます。
本当はもっと書きたいこともありますが、ネタバレや私の主観を読者の皆様に植え付けることになるので、この辺にしておきます。冒頭に述べたような私的なことを除いても、本作は非常に素晴らしいものでした。プロアマを問わず久しぶりに、「心から出会えてよかった」と思わされた作品です。本屋さんに並んでいてもなんら不思議でない文章力に構成力、そして心を軋ませる冷たい温もり。それらを皆様にも味わってほしいです。