第27話 幼馴染の気持ち
「ただいま~」
連がミーティングに行くというのでアタシは連と一緒に連の家を出てそのまま帰ってきた。と言ってもアタシの家は連の家の隣なんだからすぐなんだけど。
「お帰り。遅かったじゃない。何かあったの?」
「ん。学校終わった後、連の部屋に寄ってた」
「えっ!連君の部屋!?」
アタシの言葉に出迎えてくれたママ――
「ひょっとしてナニかあったの!?遂に娘が大人の階段を…っ!」
ちょっとそういう表現止めてよ…。何か落ち込んできちゃうじゃない……。
「別に何も無かったわ。ただ部屋でアタシは漫画を読んで、連は特撮を観てる。ただそれだけ」
「そう…。連君も奥手ねぇ…。うちの娘はこ~んなに可愛いのに。まぁいいわ。まだ夕飯できるのに時間がかかるからちょっと部屋ででも待ってなさい」
「は~い」
ママの言葉を背にしてそのまま2階の自分の部屋に入る。物に溢れた連の部屋と違って色々シンプルなアタシの部屋。ただまぁ色々お洒落には飾っているつもりだけど。いつまた連がアタシの部屋に来るかもしれないから、一応いつも意識して綺麗にはしていた。
「可愛い…か……」
ふと置いてあった姿見に目をやる。一応、練習の為にアイドルとしてデビューした時に買ったものだ。そこにはアタシの全身が映っていた。
自分で言うのも何だけどアイドルをやっている位だもの。確かにアタシは可愛い。実際、告白も何度もされているし、仕事先でも年の近い共演者の男に言い寄られる事も一度や二度じゃない。でもアタシはそんなのに全く興味が無い。いつも断ったり避けたりしていた。
今日だって久しぶりに朝から学校に行ったらあからさまにアタシの顔や体が、アタシがアイドルだからそれを目当てで言い寄ってくる男も何人かいた。
小学6年生の時に一度、彼氏を作ったけど連はそれに特に興味を示さなかったからアタシが他の男と居た所で連にとってはどうでもいいんだと分かったら何だかバカバカしくなったからというのもあるし、やはりどうしても連の顔が頭に浮かぶ。結局、アタシは連の事がどうしようもない位に好きなんだ。
でも連はアタシに興味を示さない。他のどうでもいい男達は寄ってくるのに一番アタシ自身が求めているアイツはなかなか寄ってこない。今日なんて人目があるからとか言ってアタシの事を穂希じゃなく須田さんなんて他人行儀な呼び方をしてくるし。
折角、アタシが部屋に来てるっていうのにアイツは目もくれないし。一応、今日は勝負下着を着けてきたし漫画を読むふりをしながらスカートをちょっとずらしてみたり、必要以上に足を強調してみたり、ブレザーを脱いでシャツのボタンをわざと開けて胸元やおへそが見える様にしてみたりアタシなりにアピールしてるつもりだったんだけど全然気づいてなかった。悔しい。
アタシだって普段はツンケンしているけど本当は連に滅茶苦茶にされたい、抱かれたいと思っている。アタシは連のものになる覚悟はとっくにできていた。今だってこうやって連と愛し合う事を考えるだけで体の一部が熱くなるのを感じる。連に動く気が無いのならむしろアタシから連を襲うという手もあるのかもしれないが、アタシだって女の子だ。初めてはロマンチックな雰囲気でシタいし、もし失敗してアタシ達の今の関係が崩れるのも怖い。
それに水沙と綺夏の存在もある。2人とも連の事が好きでアタシと同じ様に連のものになりたいと思っている。水沙は連の実の姉の癖に近親相姦上等な考えだから、いつどうなるかも分からない。連はそう易々と雰囲気に流されるタイプじゃないけど、何かあったらどうなってしまうんだろうという不安は無いでは無い。
だからアタシ達は淑女協定を結んでいる。それぞれが連に変に手出しをしない様にお互いがお互いを監視しあうある意味膠着状態のまま、連が遂にその気になって誰かを選んだ時は他の2人はそれを応援しようと。でも、現状水沙はスキンシップが激しいし、綺夏は綺夏でしれっと連と2人きりになろうとするから正直、その協定もどこまで機能しているか微妙な所ではあるけど。
「あ~もうムシャクシャする~!」
アタシは制服姿のまま鞄を放り投げてベッドに飛び込んだ。
「大体連も連よ!一体何年幼馴染やってると思ってんのよ!いい加減気付けっつうの!つうかアイツも思春期男子でしょうが!男の部屋に女が来るっていうのがどういう意味か察しなさいよ!ちょっとは興味持ちなさいよ!特撮特撮ばっかじゃなくてさぁ!少しはアタシを見なさいよぉっ!」
この場にいない連に体をバタバタ動かしてつい不満をぶつけてしまう。
あー何か虚しくなってきた。そうなると急に冷静になる。とりあえず着替えよう。このままだと制服に皺ができる。
アタシがベッドから起き上がり、制服を脱いで下着姿になる。ふと姿見にまた目を向ける。当たり前だがそこには下着姿のアタシがいる。水沙や綺夏程では無いにしろアタシも平均よりは出ている所は出ているし、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。それにアタシは身長が低い。その分、ぱっと見はより目立つはずだ。男からしたらこれでも十分魅力的な体だろう。
実際、アタシの体をジロジロ見てくる男も結構いる。
でも、連はアタシをそういう目で見ない。他の男から見られても連に見られないなら意味ないじゃない。むしろ連にはもっとそういう目で見てほしい。
「ねぇ、連…。アタシってアンタにはそんなに魅力が無い女の子なの……?」
またついこの場にいない連に対しての言葉が出てしまう。何かちょっと泣けてきた。
実際、姿見に映るアタシの頬を光るものが流れていた。
あぁ嫌!ほんと嫌!アタシは頭を振った。弱気になってどうするのよ須田穂希!
「穂希~!ご飯よ~!」
「は~い!」
丁度、1階のママから呼ばれた。アタシは急いで着替えて1階に降りて行った。
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本編にそこまで影響しませんが、穂希のスリーサイズ設定変更しました。
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