第18話 イヤじゃなかったよ
「あれ~?リュウくんじゃん」
誰かが連ちゃんに声をかけた。
連ちゃんに声をかけたのは身長はわたしより低い位のおっとりとした見た目で少し可愛い感じの雰囲気の女性だった。でも何となく年上っぽい。同い年や年下で無いのは確かだ。
というか誰?この女?そもそもリュウくんって何?まさか連ちゃん、いつの間に彼女ができていたの?連ちゃんは人見知りだ。余り親しくない人に対しては目を細めて眉間に皺を寄せる癖がある。でも、この女に対しては連ちゃんはその癖を見せていない。という事はこの女には心を許している…?それなりに親しい関係…?やっぱり彼女ができたんじゃあ…?わたしの思考回路がグルグル回ってまとまりが付かない。とにかく内側から何か黒い感情が湧き上がっているのだけは感じた。
「浅田さん!どうしたんですか?こんな所で」
「わたしはちょっと手芸屋に布を買いに来てね~。リュウくんは…っ!?」
やっぱり連ちゃんの知ってる人なんだ…。本当に一体誰?ああもう、頭の整理が追い付かない…!凄く胸が苦しい…。
すると浅田さんと連ちゃんに呼ばれた女はわたしを見て目を見開いた。何?一体…。
「もう何だリュウく~ん!特撮しか興味ありません。恋愛とかどうでもいいですみたいな事言っててやる事はしっかりやってるじゃ~ん!」
「やる事って何ですか?一体?」
「またまたとぼけちゃって~。こ~んな可愛い彼女がいるなんてさぁ~。いるなら教えてよ~!」
そう言って笑う浅田とか言う女。
ていうかかかかかか、彼女!?わたし、連ちゃんの彼女って思われてる!?やだ嬉しい…。傍目からはちゃんとわたし、連ちゃんと恋人同士に見られてるんだ…!現金なもので彼女と思われた事でわたしの中の黒い感情は急激に萎んでいった。
「いや、彼女じゃないですよ。この人はただの従姉ですよ。従姉」
連ちゃんは何を言っているんだこの人は?みたいな顔で反論している。
もうそこは訂正しないで欲しいな。
「従姉ねぇ~。ふ~ん、従姉かぁ~」
浅田という女はニヤニヤした顔をしている。
「なぁ、ほら俺達は従姉弟同士で別に付き合ってないってアヤからも言ってやってくれ」
連ちゃんはわたしに話を振る。
わたしとしてはこのままこの人には勘違いしてもらったままでいる方が都合が良い。そうやって外堀を埋めてわたしと連ちゃんが付き合っているという客観的事実を作り上げていってそのまま本物の恋人同士になれたらそれで構わない。だから、何も言わなかった。
「おい、アヤ~」
連ちゃんは困った顔をしている。でもわたしには事実を言って都合が良い事なんてないも~ん。
「そっか~。アヤちゃんって言うのか~。私は浅田芽衣って言います。RAM――ロッソアクションメンバーズでリュウくん――桐生連くんの先輩やってます。どうぞよろしくね~」
「どうも…」
浅田という女が改めてわたしに自己紹介をした。わたしも一応自己紹介をするのが筋だとは思ったけど、ここで芹野綺夏だと言うのはマズい。だからわたしはただのアヤとしてだけ挨拶を返した。
それにしてもそうか、アクションチームは女もいるんだ。考えてなかった。浅田は連ちゃんに気がある素振りは無さそうだけど、他にどんな女がいるか分からない、ひょっとしたら連ちゃんに気がある女もいるかもしれない。気を付けるに越した事はない。
わたしは心の中で炎を燃やした。
「ふ~ん、なるほど。そういう事か~」
浅田はわたしと連ちゃんを交互に見てニヤニヤとした顔を変えていない。
「だからですね、浅田さん。俺とアヤは別に付き合ってませんから」
「分かった分かった。皆まで言うな~」
「本当に分かってます?」
「いやぁ~リュウくん。改めて考えるとちょっと大概だね~。ま、私は面白いから良いけどね~」
「面白がらないでくださいよ…」
「でもねリュウくん」
浅田が連ちゃんの顔にビシッと指をさす。それまでニヤニヤした顔だったのに急に真剣になる。
「その気になってる女の子を前にしてそういう態度はダメだよ?」
連ちゃんの頭の上に思い切り?マークが浮かんでいるのが見えた。まさかこの人、わたしの気持ちに気付いて…。
連ちゃんが考え込みだすと浅田はわたしの傍によって来てそっと耳打ちした。
「リュウくんは凄~く鈍感みたいだから、あなたの方からグイグイアピールしないとダメだよ~?」
やっぱり浅田はわたしが連ちゃんを好きな事に気付いている…。
アピールは昔からずっとしてるんだけどな…。
「分かりました」
「押してダメなら押し通せだよ~」
一応、そのアドバイスを受ける。
そしてわたしから離れる浅田。連ちゃんはやっぱり何もわかっていない顔をしている。
「さて邪魔者の私はそろそろ行くよ~。お2人さんはお熱くね~」
そのまま浅田は去っていった。残された連ちゃんとわたし。連ちゃんは「明日、大丈夫かなぁ…」と何だか弱気な事を言っている。
「ね、ねぇ…連ちゃん?」
「ん?」
「わたしは、イヤじゃなかったよ。連ちゃんの彼女だって思われるの…」
「どうして?」
「ど、どうしても!ほらもうわたし達も行くよ」
わたしが本心を伝えても連ちゃんはやっぱり理解していない様だ。
連ちゃんらしいと言えば連ちゃんらしいけど、ちょっとは分かってよ、もう…。
何だかここに居るのが急に気恥ずかしくなったわたしは連ちゃんを無理やり連れて出た。
でも傍から見たらわたしと連ちゃんは恋人同士にちゃんと見えている、それはやっぱり嬉しかった。
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