第22話 美少女ハーレム系

 週明けの月曜日。


 最近ではお馴染みとなったまいとの登校。まわりの刺すような視線には未だ慣れることはないが、触れそうで触れないような友達としては近すぎる距離感というものには慣れてきていた。


 ピトッ


 うん。触れそうで触れないのであって、0を通り越してお互いの身体の境界線が崩れてしまうような距離感には慣れるわけがない。


『フンッ』とか『ツーン』だとか小さく呟きながらそっぽ向くまい。おはよう以降はまともな会話もしていないため、チラチラと俺の様子を探っている隣の美少女を放置して、目の前で今日も繰り広げられるラブコメ鑑賞を———


「チラチラ」


 いやまあ、その仕草とか行動はかわいらしいんだけどね? 口に出すのはどうかと思うわけよ。


「何か言いたいことでも?」


 埒があかないので単刀直入に聞くと、ビクッと肩を震わせながら恐る恐る振り向いた。


「あ、そ、その。別に昨日はかわいい子に囲まれて良かったね〜、とか、信平くんの女友達って少数精鋭なんだとか、ナチュラルにボディタッチできちゃうほど仲がいい子がいるんだとか、私も一緒に体動かしたいな、とか思ったりなんて、ましてや昨日のお楽しみの時間を越えるようなデ、デートをしてもらいたいな、なんてこと———思ってます」


 ブツブツと呟いたかと思うと、最後はプイっと顔を背けながらも本音を隠さなかった。

 ツンデレに憧れでもあるのだろうか? まいのキャラクターだとツンデレは無理があると思うぞ? そうだなぁ、属性でいうと幼馴染とか後輩とか姫系とか。ほんわかとしたイメージの方が似合うだろ。


 自分の世界に入りながら妄想していると、どこかから期待に満ちた視線を感じる。


「じぃ〜」


 いや、すでに声に出ていた。


「……声に出てるぞ。デートって言われると敷居高く感じるけど、一緒に出かけるのは構わないぞ。どっか行きたいところあるか?」


 ぱぁっと笑顔の花が咲く。


 うん、まいにはヒロイン枠が似合いそうだ。

 俺に主人公枠はどうだろう?


♢♢♢♢♢


「本当にこんなところで良かったのか?」


 学校帰りのショッピングモールをまいと2人で歩きながら、ふとそんな言葉を口にした。


「はい。やっぱりその、制服デートって憧れてたりして。かしこまったようなデートは非日常な気がするんです。でも学校帰りの日常の中に信平くんがいてくれることが私には何よりもうれしくって」


 鞄を後ろ手で持ちながらスキップするかのように歩く姿を見ていると、心から喜んでくれているのを感じられる。


「あ〜、なるほど。日常と非日常ね。確かにデートって言われると俺には非日常だわ。こうやって学校帰りに寄るのは日常だわな」


 納得納得とひとり頷いていると「じ〜」と言いながら何か言いたげな表情で見られている。


「制服デートは日常でしたか?」


「は? あ、いや違う違う。学校帰りの寄り道が日常ってことな」


 ジトっとした視線を向けられたじろぐが、タイミング良く目の前のスポーツ用品店から俺の日常風景のサンプルがやってきた。


「ほらっ、あんな風に備品の買い出しに———、なんでもねぇ」


 失言に頭を抱える。

 

 いや、失言ではないな。俺の時はあんな風にはならないし人数も違う。


「ほらほらっ、さっさとイクよ?」


 派手な金髪に着崩した制服のギャルがおとなしそうな後輩の腕を引っ張っている。


「冴木くん? なんで?」


 目の前の光景にまいの理解が追いついてないようだ。


 部活に必要な備品はマネージャーがピックアップして荷物持ちとして男子を連れて買い出しに行く。一年だった昨年は何度も呼び出されたものだ。


「花音先輩、ちょっと近いっていうか離して下さい」


「何言ってんだよ。離したら迷子になっちゃうだろ? グダグダ言って無いでさっさとイクよ?」


 カノちゃんと真斗に続く者なし。

職権濫用も甚だしいわな。


「冴木くんがう、浮気してます!」


「落ち着けまい。一応真斗ときょうはまだ正式には付き合っていない」


 錯乱状態で鞄をガサゴソと探っていたまい。


「き、きょうちゃんに連絡しないと!」


「待て待て。その必要ないから」


 スマホを操作する手を握り、反対の手で真斗たちの後ろを指差す。


「あ、あれ? きょうちゃん?」


 付かず離れずの距離をキープしながらコソコソと後をつけるパーカー姿の女子高生。フードで顔を隠しているつもりだが、そんなんじゃ美少女オーラは隠しきれない。


 自分が目立つ存在で、すれ違う男たちが振り返り見ているのもお構いなし。


「ぎぎぎぎっ! 花音先輩っ、近い! 近すぎる! マサくんのその間合いに入っていいのは私だけなの!」


 多方、部活帰りに一緒に帰ろうと思っていたのに、目の前で掻っ攫われたんだろうな。部活の買い出しと言われると真斗に断る術はないならな。


 俺たちのことなど全く視界に入っていないのだろう。きょうは歯軋りしながら目の前を通り過ぎていく。


「……」


 掛ける言葉もなく呆然としていると、不意に袖をクイクイと引かれた。


「信平くんにも、あんな感じでしょうか?」


 不安げな表情で聞かれ、思わず苦笑い。


「なわけあるか。真斗に対してだけだよ」


 カノちゃんはああ見えて乙女だから、俺たちに対しては暴君でも真斗好きな人に対してはツンデレだ。


「……そうですか。きょうちゃんも頑張ってるんですね」


 勝確だとは思うけど、土壇場で大逆転の可能性がないわけではない。カノちゃん以外にもライバルはいるわけだしな。美少女ハーレム系も大変だな。


「私も、もっと頑張らなきゃですね!」


 グッと手を握りしめて気合いを入れるまい。


 変な方向に走らないことを祈るばかりだ。


 

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