第五話 飴と鞭
夕食
鈴木宅には
テレビ番組の音声と
食器と箸が当たる音だけが満たされていた
現在鈴木宅には
鈴木(母)と鈴木蒼真
そして土切美咲が居る
食事中に喋ってはいけないというルールは無い
実際普段は母から一方的ではあるものの
会話をしている
だが今日はそういう事をする気分にはなれない
「義母さん」
だが
土切はどうやらその範疇ではないらしい
「あら
美咲ちゃんどうしたの?」
どうしたの?とはこちらの台詞である
何故土切美咲の名前を知っているのだろうか
自己紹介のシーンなど
俺は見ていない
「今日はお宅に泊めて頂き誠にありがとう御座います」
「いいのよぉ
困った時はお互い様って言うし
しかも…
ねぇ」
何が
ねぇ
なのだろう
会話をする中で
チラチラとこちらの顔を見ないで欲しい
「だって二人はつまり…
そういう関係になっちゃった訳でしょぉ?」
だからそういう関係って何だ?
「だから早いに越した事はないと思うんだけれど…」
「ええ
私もそう思うわ」
通じているっ!
この二人の頭の中だけで
解釈が共有されているだと…?!
「いやぁ
それにしてもほんっっっ………と」
溜めが長いっ
「助かったわぁ
ほら
この子少し引っ込み思案な所あるでしょう?
そういう所お父さんに似てて…」
お母さんは時々遠い目をする
「実は一人で心配していたけど」
お父さんの話をする時だ
「これでお母さん安心出来るわぁ」
俺はお父さんの記憶はあまりない
物心つく頃には既に居なかった
「少し頼り無い子だけど
どうか見捨てないで一緒にいてあげてね」
お母さんに訊いても
「そういえばそんな人も居たような気がするわぁ」
としか答えてくれなかった
「美咲ちゃん」
仮にも過去に愛した人をそんな風に言うだろうか
家に飾ってある家族写真を見せても
お母さんはそれをお父さんと認識することは無かった
「ええ
勿論よ」
え?今コイツ何つった?
「蒼真君の事は必ず
私が幸せにしてみせます」
「あらぁ
とても心強いわぁ」
ここにカップル爆誕である
しかも結婚を前提にしたカップルである
成程わからん
「あのさ二人共
俺全然話ついていけてないんだけど
今ここで何の会話が成されてたの?」
「それは蒼真ぁ」
「勿論これから二人仲良くという話よ」
「何をどんな風に仲良くするんですかね美咲様!」
「あら
ご主人様をしっかり様付けで呼べるなんて偉いじゃない
後で寝る前に頭を撫でてあげるわ」
「はいはい有り難き幸せ」
「あらあらぁ
二人共仲が良いわねぇ」
どこがやねん…
そこからは風呂に誰が一番始めに入るか
土切はどこで寝るのか等
てんやわんやあったものの
いつもと同じように時間が流れていった
※
就寝時刻
あれからなんやかんやあって
ひとまずは
鈴木が床
土切は鈴木のベッドで寝る事になった
鈴木(母)は
どうせ一緒に寝るようになるのだから
今の内から慣れておけ
と
一緒にベッドで寝るよう促されたが
年頃の男子である鈴木は
寝付けそうに無いから
と即時却下した
「本当に床で良かったのかしら」
「良い訳ないだろ
体痛くなるし
床汚いし」
「それじゃあ少しだけで良いから
こっちに来てくれないかしら
私の用件がまだ終わってないのよ」
「用件…?」
何の事かいまいちピント来ない鈴木ではあったが
敵意も無さそうなので
恐る恐るベッドの上に登る
「早く」
一緒に布団の中に入れという事だろうか
鈴木は土切の声に一瞬怯んだものの
そうっと布団の中へと体を忍ばせた
こんなにも女子が近くに居ると思うと
体が固まって動かなくなってしまうので
終始目を閉じていた
何秒間じっとしていただろうか
ゆっくりと目を開けようとすると
鈴木の体の両側を何かがするりと這い
抱き寄せられたかと思うと
額と鼻が何か柔らかい物に触れる
「言ったでしょう?
寝る前に頭を撫でてあげると」
その声が途絶える前に
体を抱き寄せていた筈の物はいつしか
頭の後ろに添えられ
ゆっくりと優しく
頭を撫でていた
「今日は良く働いてくれたわね
明日もこの調子で頼むわ」
飴と鞭
極限状態に陥った人間は
少しでも優しくされると
それをひたすら求めるようになる
この瞬間から鈴木は
土切の虜となった
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