第14話:検証中2

 八回目は〖触れたことがある物を形を変えて転移する。対象は鉄のインゴット〗──今は鉄のインゴットだから鉄のかたまりだが、それを棒状に変えるイメージで手元からソファに転移。


結果は成功。


鉄の塊だったインゴットは棒状に変形してソファの上に転移した。


へえ……面白いな。正直できるか不安だったができた。


《形を変えて転移……ね、よく思い付いたわね》

女神さまが感心した声をしている。


《以前、クラスメイトの誰か……多分愛読者Kたちが〖収納魔法で収納した物の原型を保てず追放される〗主人公の漫画にハマっていると、話していたのが聞こえたのを思い出しまして、転移でも同じことができないかと……できて良かったです。》


偶々耳に入ってきたことが、役に立つ日が来るなんてな……。


《想像力は大事って言ったけど、ただ想像するだけじゃ魔法として具現化なんてできないのよ? 曖昧じゃ駄目なんだから。なのにそれだけ直ぐにイメージして実現できるのは贔屓目ひいきめ無しで凄いことよ。》

誇っていいわ。と女神さま。


少し照れた。



検証再開。


 九回目は〖障害物を越えて物を転移する。対象は鉄の棒〗──今度は手ぶらで部屋を出て、廊下には誰もいないことを確認。扉を閉めて棒状の鉄のインゴットを元の形に直すイメージで手元に転移させる。


結果は成功。


廊下にいる俺の手元には元の形の鉄のインゴットが収まる。


 そこでふと気付いた。俺自身を対象として、障害物を越える検証をしていなかったと。


 一〇回目は〖障害物を越えて転移する。対象は自分〗──転移させた鉄のインゴットを手元に持ったまま部屋の中へ転移する。


結果は成功。


 部屋の外、廊下にいた俺は鉄のインゴットを持ったまま、扉に触れずに部屋に戻ってこれた。


 十一回目は〖物の指定した一部を転移する。対象は花瓶の取っ手〗──台の上の花瓶に出番ですよ! と対象になるように触れる。そして、花瓶の取っ手のみをソファに転移させるイメージ。


結果は成功。


 ソファの上には、花瓶の取っ手部分のみが落ちており、台の上には取っ手を失くしてしまった花瓶が、そのまま置いてある。


 この、指定した一部を転移できるのは大きいと思う。まだ生き物で試せていないから分からないが、生き物でも可能ならを体外へ転移させれば医療行為ができる。もちろん医療の知識はないので絶対できるとは言えないし、練習も必要だろうけど。


 それ以外にも、頭など体の一部分のみ心臓のみ、血液のみと指定していけば戦闘をする間もなく、魔物を倒せるんじゃないだろうか。


 一度触れなくてはいけないという条件付きではあるが……。


何事にもリスクゼロはあり得ない、ということか。


 あるいはしかばねの内臓などに、一度でも触れてしまえば解決するかもしれないが……心臓は心臓でも人間とは別だと判断されるのか、同じ物と判断されるのか分からないし検証あるのみだな。


そこまで試して、これからのことを考えながらベッドに転移し横になる。


 これで、部屋でできることはあらかた終わりかな? まだ気付けてないこともありそうだけど……取り敢えず、今の俺が気付けていてこの部屋でできることは、このくらいかな……。


 あとは魔物で試して、生き物にも同じことができるのか、考えていることが実現可能なのか検証して…………




────────────────────

────────────

──────




いつの間にか寝落ちしていたらしい。


眩しい日の光に起こされた。


 そこで初めて、カーテンも閉めずに検証していたのか……と、自分の油断が嫌になる。


 しかし、城外の誰かに見られるような位置の部屋ではないので、今回はセーフだと自分に言い訳して、次から気を付けようと決めた。


《おはよう。シズヤ》

よく寝れたみたいね。と女神さま。


《おはようございます。》

そういや女神さまって睡眠は……


《寝ようと思えば寝れるけど、絶対必要なもの、ではないかな》


なるほど……。


 起きたしスッキリさせるため顔洗いたいな……と思うも風呂場まで行くのは怠い……。


 実はこの部屋、城の豪華な部屋だけあって、風呂もトイレも付いている。未使用だが、扉が換気のためか開けっぱなしで分かった。


だがベッドからは少し遠い。


 そこで思った。そういえば夕飯時に、日本食もどきと共にお茶ではなく、水を飲んだな……と。あれはどうなるんだろう? に分類されるんだろうか?


 鉄のインゴットの形を、調理器具のボウルに変形することをイメージして手元に転移。


そこに、飲める水をイメージして転移──できた……。


 え、もしかして飲んだり食べたりしたものは、同じものなら転移できてしまう感じか? 凄いな転移! いつだったか移動手段とか言ってごめん。


 いやしかし、どこから転移してる? 城の中からの泥棒じゃあるまいな? この謎は残るな……。確認しようにも難しい……取り敢えずこの件は保留にして、水はともかく食べ物とかの転移はやめておこう。


飲んだ水と同じってことは、大丈夫だと思うけど……一応、初の鑑定!──



水:飲むことが可能な水。

状態:良



──おお。魔力が多いから状態まで見れるんだった……便利だな。安心して顔を洗う。


《さり気なく使いこなしてるわね……》

顔を洗ってる時に女神さまが何か言った。


ふう。スッキリ。


 タオルはまだ触れたことがないから仕方なく頭を振って水気を飛ばそうと──してやめる。顔につく水滴を意識してボウル内に転移。


 だと、えらいことになるので怖かったが、思ったようにできて一安心。風呂も同じようにすればタオルなしでもいけるな。


 同じように、洗濯こそ水分を転移させればいいだけ、だから洗顔よりは簡単だけど、俺だけそれをするとクラスメイトに会った時、面倒なので我慢。


 あ、汚れだけ転移とかも意識すればできるかも? でも取り除かれるのはだから、普通に洗濯した方がいいな。


 そういや洗濯とか着替えってどうするんだろう? ずっと洗濯せず、洗濯しても制服を着潰すとか……ないよね? 普通に嫌ですが。


後でロイルさんにコールしよう。


しかし、水冷たいな〜どこの水を転移したんだろう?


 そこで、また一つ気付いた。転移対象に何かを転移ってできるんだろうか?


 例えば、今思ったのは水に熱を加えて──とか。そういう……気付いたなら試してみるしかないだろう。


気付いたら、試してみよう、転移魔法  シズヤ。うーん字余り。


《シズヤって寝起きふわふわというか、ふにゃふにゃしてるわよね……》

女神さまがなんか言ったが、俳句にひたって聞こえなんだ。


ではそういうことで、寝落ちして曖昧だが確か十二回目? の検証。


〖転移対象に何かを加えて転移する。対象は水〗──水に熱を加えて、お湯にするイメージで手元のボウルに転移。


結果は失敗。


 なにゆえ? んー、考えられるのは加えようとしたのがだから、かな……熱に触れたことはないしな。


 あ、俺の防御力なら誰かに基本属性魔法を当ててもらえれば、それを転移対象に加えることができるようになるのでは?


《シズヤの防御力だからこそ成せる技ね……》


 女神さまお墨付きの防御力ですからね! あと、ついでにその時魔法を転移できるのかも、同時に試しておきたいな。


 やることいっぱいだ。しかし、取り敢えず先にロイルさんにコールしよう。洗濯と着替えの件を確認したい。


 俺は自堕落な転移洗顔を諦めて、ボウルの中の使用済みの水をトイレ転移させ、ベッドを出ると背筋をのびーっとして、コールキューブでロイルさんにコールする。



『おはようございます。シズヤ様、どういったご用件でしょうか』


「おはようございます。あの、洗濯物とか着替えとかってどうすればいいでしょうか?」


『その件でしたら、朝食で食堂へ行かれた際に分かるかと思われます。』


 あ、これは絶対にこりとしてるやつだ……食堂で何があるというんだ、怖すぎる。


「……ちなみに朝食を部屋でいただくことは──」


『食堂へどうぞ。』


「はい……」


ロイルさんの声で、ほっほと聞こえた気がした。笑われた?


『お部屋でもご用意は可能ですが、今回のは参加しておいた方がシズヤ様的にも、よろしいかと』


 何か俺が参加しておいた方がいいことが起こるってことか……なら腹をくくりますか。


「分かりました。大人しく食堂に行ってきます。」


『行ってらっしゃいませ』



 コールオフと言って切る。ロイルさんとの通話? を終えて、俺は食堂へ行くための準備。とは言っても着替える服はないので、制服の皺をのばして着直して部屋を出ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る