第一章 chapter1-10
「さっきの話の続きだけど、本当に私と会ったことはないんですか?」
「そうですよ、さっきのは余りにふざけてる答えだと私も思います」
私の再度の質問にみかさも擁護の言葉を入れてくれた。
その質問に雪声は複雑な表情を浮かべる。
「私は……私はあなたに会ったことはないと思う」
どこか含みのあるその物言いに私は引っかかりを覚える。
「何か引っかかる言い方するのね」
「…………」
黙ってしまう雪声に私は大きくため息をついた。
「考えてみると初対面だというならちゃんとした自己紹介もまだだったわね。
私は凡河内桜夜」
「私は観音崎みかさです、桜夜ちゃんと一緒にバンドとかやってるんだよ」
「……バンド?」
「うん、といってもアマチュアのへたっぴバンドだけどね」
「みかさ、そこまでは言わなくて良いよ」
私は慌ててみかさの口を塞いだ。
そんな私達の行動がおかしかったのか雪声の口元に笑みが浮かんだ。
「あなたもそんな笑い方するんだ」
私は思わずそんな事を口にしていた、それは彼女が作った物ではない笑みを
浮かべたのを始めて見た気がした。
「私だって面白ければ笑ったりしますよ」
再び先ほどまでの無機質に思える表情に戻った彼女は言った
「桜夜とみかさね、改めてよろしく」
「よ、よろしく」
「こちらこそ」
よろしくと言いながらも彼女自身の心が私には見えなかった。
私はその言葉に対してどうすればいいのか、反応に困る。
そしてアイドルをやっているときの彼女の人なつっこい笑顔を思い出してい
たが、今彼女が浮かべている無機質にも感じる表情とのギャップに彼女は本当
に私達と同じ人なのだろうかとついつい考えてしまう。
「どうしました?」
私が違和感を持って、彼女を見たのを怪訝に思ったのか私の事を見返してき
た。
「所で私に用事があったのは桜夜が私と会ったことがあるかと言うことだけで
すか?」
彼女に問われて、今日話をしたかったことを私は思い出す。
「……あ、違います」
「そう、さすがにさっきのだけではここに呼ばれた意味もないきがするしね」
手にしたパック珈琲を飲み終わるとくしゃっとパックを潰しながら彼女は言
った。
「それで?」
「あの……昨日私達のことを見ていませんでしたか?」
「昨日?」
「はい、私達の気のせいかもしれないけど、昼休みや放課後に……」
私達のその言葉に雪声は黙り込んだ。
しばらく黙っていた彼女が口を開く。
「……昨日?知らないわね、何か証拠はあるの?」
「証拠はないけど……、昨日あなたのことを見たのよ、放課後に」
「あと昼休み、教室から私達のことを見ていた……と思う」
私が放課後に彼女が見られていたと感じ追いかけたことや、昼休みのことな
どを雪声に簡単に説明をした。
一通り黙って私達の話を聞いていた雪声だったが、すっと視線をずらした。
「多分人違いだったんじゃない?走っていく私を見たって言うのも後ろ姿だけ
なら私である証拠にはならないですし」
「それはそうだけど、この学校で他校の、しかも雪声が着ている制服と同じ物
を着た別人がいるとは思えないんですけどね?」
わざと意地悪くそう言った私の言葉にみかさも眉を曇らせるが、その効果は
あったように感じられた。
「気のせいだと思いますよ、私じゃないと思います」
そう言って彼女は立ち上がる。
「それじゃあ、私は午後の授業の準備をしたいのでこの辺りで失礼します」
「もうそんな時間?」
小さくお辞儀をして去っていく雪声の後ろ姿を見送りながら私は上着のジャ
ケットのポケットからスマートフォンを取り出し時間を確認した。
「まだそんな急ぐような時間じゃないと思うけどな……、それにしても……」
そして去っていく前の言葉のいくつかはわずかだが声が震えているように私
には聞こえてきた。
「ねぇ、みかさ。私の気のせいかもしれないけど、彼女の声震えてなかっ
た?」
「ん……私もそう感じたよ」
「何かあるのかな?わからないけど……」
「どうなんだろうね……」
私とみかさがそんな会話をしていると、昼休みの終了を知らせる予鈴が校内
に響き渡った。
******
午後の授業を受けながら、私は先ほどの昼休みでのことを思い出していた。
「絶対に何か隠してる気がする……」
ちらちらと雪声の席を見ていると突然横から声が掛けられる。
「どこを見ているのかな、桜夜さん?」
振り向いた私の横には口元をひくひくとさせている数学の男性教師がたっていた。
「桜夜さんにとっての黒板は窓の外にあるみたいですね?」
「あ、えっと……」
その教師の言葉で教室中が笑い声に包まれる。
「ちゃんと授業に集中しなさい、良いね?」
「……はい……」
私はそう返事を返すことしかできなかった。
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