第18話 とんぼ返り
三人に交代で行う面会は、よくわからない状態のまま始まった。
何を話せばいいのかと最初はとても気が重くなっていたが、相手の間合いがわかってくると意外に楽しい時間が持てることに気付いた。
なぜなのか、と悩んだこともあった。
しかし、事実は単純だ。私のことを「婚約者を奪われた悲劇の女」と思い込むことがないためだ。その上、三人には「貴族の令嬢とはかくあるべし」という風に、無条件にたおやかな淑女であることを求めるようなところがない。
毎日「動きやすいから」という理由だけで男装をして、刺繍より乗馬を好み、恋物語に胸をときめかせるより租税について頭を悩ませる。それが私だ。
三人の貴公子たちは、不思議なほど私がそういう人間であることを受け入れている。それどころか何の疑問も持っていないらしい。何を求めて求婚しているのかを、はじめに言い切っただけあるということか。
こういう三人の相手だから、私も肩を張る必要がない。相手の方々も、初回と同じようにのんびりとしたままだった。
三人とも美麗なくせに少し変わった人物で、マユロウの館でも自分たちの好きなように過ごしている。こういう相手だから、私も思ったより忍耐力を養う必要はなかった。
しかし、事態はそれだけではすまなかった。
三人への面会が三巡目を終えた日の夜。
何をどうやって聞きつけてきたのか、あるいは父が知らせたのか、都からアルヴァンス殿が到着した。
「ずいぶん珍しい。都にお戻りになったばかりと思ったのに、もう来たのですか?」
都までの日程を考えると、ほとんど休む暇なく出発しているはずだ。だから再会を喜ぶより、呆れ顔で言ってしまっても仕方あるまい。
下世話な話になってしまうが、都とマユロウ領の間は離れているので、それなりの旅費がかかる。
以前の酒宴の席で彼自身が言ったように、アルヴァンス殿の母方の家は気の毒なほどの貧乏貴族で、経済面ではマユロウが全面的に援助している。自前で確保しているのは、代々受け継いでいる都の一等地にある屋敷だけという話だ。
その他は、屋敷の維持費はもちろん、使用人への手当ても食材の確保もマユロウ家が手配している。都の貴族としての優美な衣装も、ほとんどがマユロウが準備していると言う。
守りたい誇りもあるはずだ。でもアルヴァンス殿はそんな境遇を恥じ入るでもなく、むしろマユロウ産の布地や装飾品を積極的に身につけることで益をもたらしてくれる。
都随一の貴公子が身につけると、どんな衣装でも何でも輝いて見えるし、指や手を飾る銀細工などは、誰もが似たものが欲しくなるらしい。
当主の再従兄弟というだけでなく、特産品を売り込みたいマユロウにとっては実にすばらしい人材なのだ。
しかしそういうアルヴァンス殿だから、派手に見える外見に反してこれまで無駄な浪費は一度もしなかった。
人目につかない王都の屋敷の中では、かなり地味な生活をしているとも聞いている。
それなのに、このとんぼ返りである。身構えるなという方が無理な話だ。
最初の驚きの後、私はハッと気付いて声をひそめた。
「……もしかして、また皇帝陛下からの密書を持って来ているのですか?」
「いいえ、それはありません。ただ、その……マユロウ伯に、面白いものが見られると知らせてもらいまして」
しかし、返ってきたのは視線を外した曖昧な微笑みだった。
私は大げさに眉をひそめた。いったい父に何を知らされたのだろう。あの父が面白いものと称したものが、本当に面白いわけがない。
少し考えて、でもすぐに思い当たった。
父のことだ。きっと三人の求婚者たちのあけすけな言葉の応酬と、それを聞かされる当事者である私のことを面白おかしく伝えたのだろう。あるいは、その後のやりとりなども面白おかしく書き送ったのではないか。
父は、私を「失った恋を忘れられないたおやかな女」のように表現する文面を書いてみせた。その父なら、今回のことも大袈裟に表現して見せただろう。
なるほど。ありそうな話だ。そこまで考えて、私はため息をついた。
「もし、父に私の求婚者たちのことで何か吹き込まれたのなら、あの方々が三人同時に揃うことはしばらくないはずですよ」
「……それは残念です」
アルヴァンス殿は、また曖昧な微笑みを浮かべた。
相変わらず綺麗な横顔で、何を考えているのか全くわからなかった。
アルヴァンス殿は、私の求婚者たちが三人揃うことはしばらくないと聞いて、残念だと言っていた。
なのに……次の日には、なぜか「四人目の求婚者」として三人に紹介されていた。
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