第13話 三人の客人



 珍しいほど動揺した父は、しかし立ち直るのも早かった。

 まるでここが戦場であるかのように恐ろしく冷ややかな顔になった父は、三人の客人を同じ客間に通すようにと命じた。

 決断というより、開き直りだろう。

 この開き直りの早さは、マユロウに流れる戦闘民族の血によるものなのか、あるいはあくまで他人事の父が面白がり始めた証拠なのか、私には判断し難い。だが別の対応を思いつくこともできず、私は父の指示を止めなかった。

 それに、いつまでもぼんやりしている場合ではない。

 客人たちを待たせるわけには行かない。父が客人たちの対応をしに行っている間に、私は「ライラ・マユロウ」の称号にふさわしい衣装に着替えることにした。


 客間へと向かった私は、いつもより美麗な姿になった。

 ただし、当初の計画にそぐうような、悲劇的な令嬢を演出するたおやかなドレスではない。

 そもそも、実物の私は女性にしてはかなり背が高い上に、目つきも鋭い。どんなに楚々たるドレスを身に着けたとしても、マユロウの次期女領主にふさわしい堂々たる大女になる。


 目標とする「たおやかな悲劇の女」を演じることはできないのなら、無駄なことに時間を費やす気にはなれなかった。

 それに、私も父と同様に開き直っていた。私を見て相手がどういう反応をするのか、興味がなかったと言えば嘘になる。

 私は、こういう面でも「たおやかな女」ではないのだ。


 さすがに客間の扉の前になると足がすくんだが、深呼吸を繰り返してから扉を開いた。

 背筋を伸ばして入室し、思いきって部屋の中を見回す。室内にはマユロウ伯の名にふさわしい威厳を見せる父と、三人の貴公子がくつろいでいた。


 来客を知ってから傭兵隊長からマユロウ伯へと変身した父はわかるとしても、三人の貴公子もそれぞれ衣装を換えたらしく、馬や馬車などで旅をしてきたばかりには見えない。いずれも美しい衣装をまとい、きれいに髪を梳き、あるいは緩やかに束ね、手に銀杯を持って和やかに談笑していた。

 そんな美々しい貴公子たちが、私に気づくと、ほぼ同時に立ち上がった。


「父上」

「おお、来たか! お三人方。これが我が娘カジュライアでございます」


 父は私を招き、自分の横の席に座らせた。

 その目が一瞬笑ったのを私は見逃さない。私の格好が気に入ったらしい。

 私が座ると、三人の貴公子たちも自分の席に着いた。その作法は、まるでたおやかな貴婦人に対するようだ。礼儀作法としては完璧だ。

 しかし私は、そういう態度をとるべき女には見えない。


 貴公子たちと同じような衣装……早い話が男装している。そしていつものように、恥じらいも何もないまま、図々しいくらいに堂々と三人の求婚者に目をやった。

 次期マユロウ伯として生まれ育った私には、こういう場での恥じらいというものが欠けている。そんな私でも、ほんの一瞬だけ、礼儀を忘れて三人の顔立ちを見入ってしまった。

 ……そのくらい、三人は三者三様の美貌の持ち主だった。


 一人は非常に繊細な美貌を持った貴公子。黒目がちの瞳は穏やかな光をたたえている。

 一人は浮き立つような華やかな美貌の貴公子。しかし目の光は鋭い。

 一人は大理石の彫像のような美貌の貴公子。表情が薄い中、目だけが生気に満ちている。


 男性の美貌はアルヴァンス殿で慣れていると思ったが、美貌の方向性が異なると話が違うらしい。

 夢見がちな乙女なら、この場にいるだけで失神しかねない。私だって目がチカチカする。このとんでもない三人が私の夫候補なのだろうか。


 皇族のファドルーン様に、エトミウ家のメトロウド殿に、カドラス家のルルドヴィス殿。

 父が言うには、ファドルーン様は「動乱が起きれば諸侯にかつぎだされる」ほどの人物で、メトロウド殿はハミルドよりも「いい男」で「豪傑」、ルドヴィス殿は異国系で「ライラ・パイヴァーの息子」らしい。

 マユロウ領からほとんど出たことがなく、三人と面識のない私には誰が誰なのかまったくわからない。

 内心の混乱と困惑を顔に出さずにいたのだから、胸を張って誇っていいだろう。


「カジュライア。もうわかっているとは思うが、改めてお三方を紹介しよう」


 識別不可能な私に気づいているだろうに、父はわざとらしくそう前置きした。

 紹介してくれるだけありがたい。そう思うことにしよう。


「右端の方がエトミウ家のメトロウド殿」


 父の言葉に合わせて、黒目がちの貴公子が胸に手を当てた。

 ハミルドと同じく、光に透けると少し黄色く見える明るめの暗色の髪だが、ハミルドよりもさらに繊細な顔立ちだ。豪傑には見えない。


「中央の方がカドラス家のルドヴィス殿」


 華やかで目がきつい貴公子が軽く頷いた。

 そう言われてみれば、ちょっと異国的な顔立ちをしているが、パイヴァー家の人間はこんなに目がきつくない。


「そして左の方が皇族のファドルーン様」


 生きた彫像風の貴公子がにこりと笑みを向けた。

 亜麻色の髪は確かに都の貴族のものだし、あふれるような気品もある。しかし実力主義の諸侯が高く評価するほどの人物なんだろうか。

 三人の求婚者に対する私の第一印象は、こういうものだった。

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