第37話

「銀、狼……?」

 勇輝は咳き込みながら言う。

「そういう事だ」

 男。

 銀狼はすっ、と勇輝の目の前にしゃがみ込む。

「現在の雇い主は、まあもう言うまでも無いだろうが……君の父上が汚職を追っていた政治家さ。圧力をかけても自分を追いかけてくる相手を『処分』するようにと指示を受けた」

「……だから……父さんを……」

 勇輝は男の顔を睨み付ける。

「そういう事だ。そうする事で私は金を貰える。あの政治家は私にとって、金払いの良いクライアントという事だな」

 ふふふ、と。

 男が笑う。

 勇輝は男。銀狼を睨み付ける。

「……お前の……お前の為に……僕の父さんは、母さんは……っ!!」

 勇輝はふらふらと立ち上がり、男を睨み付ける。

 男は黙って佇んでいた。そして。

「お前の、せいで……っ!!」

 勇輝はだっ、と走り出す。そして。

 そのまま殴りかかろうとする。だけど……

 銀狼はすっ、と横に身体をずらし、その一撃を軽く回避した。そのまま勇輝の身体をとん、と後ろから押す。

「う うわっ!!」

 勇輝は声をあげ、その場に倒れる。またしても水しぶきが上がり、水溜まりに突っ込んだけれど、勇輝はもう気にせずに立ち上がった。

「力では」

 銀狼が言う。

 勇輝は黙っていた。

「私には敵わないよ」

「だったら……」

 勇輝はびしょ濡れのまま立ち上がる。

 勇輝はぎりり、と歯ぎしりする。

「……だったら、これから警察に行って、あんたのした事を全て……」

 勇輝は言う。

「全て、暴露してやる」

 勇輝は歩き出そうとした。だが。

 銀狼はにこやかに笑う。

「君は勘違いしているようだね? 相良勇輝君」

 勇輝は銀狼の顔を見る。

「私の雇い主の政治家は用心深い。とてもな、自分にとって不都合になり得る存在は、ありとあらゆる手を使って排除する」

 銀狼が告げる。

 勇輝は何も言わない、黙って銀狼の顔を見ていた。

「だが君に関して私は、何も命じられていない」

 勇輝は黙り込む。

「つまり君は……私のクライアントから、何ら脅威と思われてはいない、という事さ」

 銀狼は小さく笑う。

「君の言う事など誰も信用しはしない。子供の戯れ言と受け取られるだけだ」

「ふざけるな!! 僕は……」

 勇輝は言う。

「僕が、証言する……僕はあんた達に殺された人間の被害者だ」

 勇輝は言う。

 そうだ。被害者の言葉を聞き入れない人間はいない。世の中は……

 世の中はそんなにも汚く無いはずだ。

 きっと……

 きっと良心ある人間がいてくれる。

 きっと……

 きっと、『正義』の為に立ち上がってくれる人間がいるはずだ。

 その言葉に銀狼はまた笑う。

「君の考えている事は解るがね」

 銀狼が告げる。

 勇輝は黙って銀狼の顔を見る。

「……世の中には、『正義』など無いよ、あったところで……」

 銀狼は告げる。

「『正義』を守る為には『力』が必要さ、どんな『正義』を掲げようが、君に力が無ければ何も守れはしないのさ、父親も、母親もね」

 ふふふ、と。

 銀狼が笑う。

「黙れ!!」

 勇輝は叫ぶ。

 そのまま拳を握りしめる。だが……もう殴りかかっても無駄だという事は頭で解っていた。ならば拳以外の方法で、こいつに……

 こいつらに思い知らせてやる。

「……僕は」

 そうだ。

 自分は負けない。

 自分は……

 『正義』だ。

 必ず。悪を……

 悪を断罪してみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る