第33話 ハルトマンの襲撃

「敵大船団発見!」


「すごい数だな」


 シュテーヴは感嘆の声を上げた。

 あれだけの船団を作れるのは、衰退しているとはいえ、さすがイギリスと言える。

 そして日本も。

 やはり脅威としか言いようがない。

 だが、勝機がないわけではない。


「恐れるな。我が艦に勝てる艦はいない」


 数は多くとも、ほとんどが重巡以下の艦しかいない。

 わざとインド洋に出て通商破壊を行うことで、自分たちがインド洋にいると思わせることに成功した。

 もちろん、これだけでは足りないので、仕掛けを施した。




「ハルトマンがジャワ島沖、それも船団前で見つかっただと!?」


 インド洋を西へ進撃中のプリンス・オブ・ウェールズに急報がもたらされ、サマーヴィル東洋艦隊司令長官は愕然とした。


「だが、ハルトマンはインド洋にいるはずではないのか?」


「長官! 襲撃された商船の乗組員の証言を精査したところ、敵艦はシャルンホルストだったようです」


「何だと!」


 驚きを隠せなかった。


「シャルンホルスト級がインド洋まで進出できるはずがないだろう」


 ポケット戦艦であるドイチュラント級はともかく、シャルンホルスト級では航続距離が短すぎる。


「どうやらオランダ領東インドの支援を受け、タンカーによる給油を行っていたようです」


「大西洋にいるはずだろう」


 イギリスは敵国の通信を傍受する体制を世界規模で整えており、ドイツ艦の居場所をいつも的確に把握していた。


「おそらく、同型艦が互いの名を使い、四隻が行動しているように偽装していたようです」


 ハルトマンもシャルンホルスト級も同じように作られているため、姿形がよく似ている。

 軍艦に詳しくない商船を騙すことなど簡単だった。

 まして同型艦の区別など不可能だ。

 相手が名乗ってきたら信じてしまう。


「なんてことだ。では、船団を襲撃しているのは?」


「オランダのハルトマンと思われます」


 サマーヴィル東洋艦隊司令長官は絶句した。

 今から急行しても、間に合わない。

 船団は大損害を受けるだろう。




「プリンス・オブ・ウェールズはいないようです」


 大船団の構成を確認していた参謀が報告する。


「そのために仕掛けを施したのだからな」


 シュテーヴは、いたずらが成功した少年の様に笑った。

 ドイツと協力するのはしゃくだったが、うまくいった。

 プリンス・オブ・ウェールズは罠にかかり、インド洋に向かっているようだ。

 おかげでこの場にいる最強の艦は、我がハルトマンのみ。

 敵の護衛を蹴散らし、船団を撃破できる。


「軽巡部隊、我に続けの信号を掲げ、突入します」


「ドールマンの奴、待ちきれないようだな」


 軽巡部隊指揮官で次席指揮官のドールマン少将は勇猛で知られる。

 彼の率いる軽巡達は船団に向かって一直線に突撃する。


「ドールマン達を援護する。敵船団の護衛に対して砲撃開始!」


 ハルトマンは威嚇するように 二八サンチ砲弾を叩き込む。

 最大でも 一五サンチ 砲しかない軽巡達は後退した。


「左より日本の重巡部隊接近! 砲撃してきます!」


「構うな」


 海軍軍人としてシュテーヴは各国艦艇の要目を頭に叩き込んでいる。

 最上型の 一五サンチ 砲では、二八サンチ 砲で防御を施された本艦を打ち抜けない。

 大したダメージを与えられないため、無視して船団撃滅を図るべきだ。


「右からイギリス艦隊が接近! レパルスです!」


 味方である日本艦隊を助けようと来たようだ。


「面舵! 最大戦速! レパルスに向かう!」


 さすがにレパルスは同じ巡洋戦艦であり、無視出来ない脅威だ。

 三八サンチ連装砲を搭載していたが、のちに一二インチ――三〇サンチ三連装砲に換装された。

 この場の連合軍艦隊では最大の戦闘力を誇る。

 とても無視できない。


「敵艦発砲! 取舵!」


 遠方から発砲してきた敵艦の砲弾を次々と回避した。


「敵艦射程内に入りました」


 ハルトマンの搭載する1934年型 二八サンチ(54.5口径)砲は四万の射程を誇る。

 一方的に叩ける好機だった。


「まだ撃つな」


 しかしシュテーヴ発砲させなかった。

 回避命令を出して、レパルスとの距離を詰める。


「レパルスまでの距離二万」


「直進! 右砲戦用意!」


「了解!」


 ようやく砲撃準備を命令し、ハルトマンはレパルスに対して併走するように航行する。


「砲撃準備完了」


「撃て!」


 前後三基、合計九門の主砲は発砲し赤道直下の海を激しく揺らす。

 ドイツ製光学射撃指揮装置は、的確にレパルスを捉え、初弾で至近弾を与えた。

 第二斉射で夾叉。


「砲撃継続、修正なし」


「撃てっ」


 第三斉射が全てを決めた。

 レパルスは巡洋戦艦だが高速を出すために装甲を犠牲にしている。

 距離二万では、二八サンチ砲に装甲を貫かれてしまう。

 それを知っていてシュテーヴは接近を命じた。

 その結果、多数の命中弾が生まれ、一部は弾薬庫にも被害を出した。

 直ぐに注水され誘爆は免れたが、戦闘力は低下する。

 それでもレパルスは戦い続ける。

 ハルトマンが就役したばかりで三一ノットを出せるのに対してレパルスは度重なる改装で二九ノットに低下している。

 何より味方の船団を守らなければならない。

 船団の盾になるように前進する。

 その執念が実り、ハルトマンに命中弾が出た。


「中央部に被弾」


「損害ありません」


 最高三五〇ミリのクルップ社製装甲がハルトマンを守り切った。


「少し近すぎるようだ。距離を離せ」


 近すぎると装甲を撃ち抜かれる。

 シュテーヴは、レパルスとの距離を二万に維持するよう命じた。

 優速だからこそ戦闘距離を選べるのだ。

 レパルスはそれでもハルトマンの戦闘力を削ろうと砲撃を試みる。

 しかし、それまでだった。

 命中弾多数による火災と至近弾による船体の歪みによる浸水。

 レパルスは徐々に傾斜する。

 そこへハルトマンの第六斉射が命中。

 機関室に命中し、タービンを損傷。

 更に隔壁を破壊してボイラー室に浸水し、ボイラーに海水が接触。

 水蒸気爆発を起こし、レパルスは大爆発を起こし、沈没した。


「レパルス撃沈」


「船団攻撃に参加する。ドールマン軽巡部隊へ攻撃する敵艦に対して攻撃を」


 シュテーヴが命じたとき、複数の砲弾がハルトマンの周りに降り注いだ。

 命中弾は無かったが、一五本の水柱が上がる。


「引っかからなかったか」


 シュテーヴは、ため息を吐いた。

 水柱の数からどんな艦が来たか分かったからだ。


「新たな戦艦接近! 日本海軍の大和です!」

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