期待外れの勇者様 ~存在しない101番目が最後の希望だった~

名無しの権兵衛

第1話 101人目

「ほあッ?」


 学校からの帰り道、足元に現れた幾何学模様が眩い光を放ったと思ったら、見知らぬ場所に立っていた不知火大和しらぬいやまとは間抜けな声を出した。


 見渡す先には白い法衣を着ている怪しげな宗教団体。

 一体ここはどこなのだろうかと周囲に目を向けていると、怪しげな風貌をしていた男が大和に向かって指を差し、叫び声をあげる。


「101人目の勇者様だ!?」

「そんな馬鹿な」

「もう女神さまの力はないはず……!」

「では、一体なぜ?」

「魔王の仕業か?」

「いや、しかし、あの男からは魔の気配を感じない」

「だが、女神さまの力も感じないぞ?」


 ガヤガヤと騒ぎ出す白い法衣を着た男達。

 大和は自身の置かれた状況に困惑していたが、すぐにこれは夢だと思って頬をつねった。


「いて……? 夢じゃない? え、これなに!?」


 痛みを感じたので大和はこれが夢ではないと理解した。

 だからといって、事態が好転するわけでもないが。

 兎に角、今は情報が欲しい。

 しかし、目の前で騒いでいる白い法衣を着た男達は大和を放置したままである。


 アレに話しかけなければいけないのだが、流石に無理がありすぎる。

 先程から訳の分からないことを延々と喋っているのだ。

 何故か、日本語で聞き取ることが出来るが、問題はそこではない。

 彼等のセリフの中には魔王や女神といった中二病を思わせる単語が飛び交っている。

 もしかしたら、お薬でもキメたやばい連中なのかもしれないと大和は警戒していた。


「(ど、どうしよう……。話しかけたいけど、変な連中だし……話してる最中に声かけて怒られるのも嫌だし……)」


 不安な大和を放置したまま男達は話し合いを続けて結論を出した。


「魔の者ではない。しかし、女神の恩恵を受けた様子もない。恐らく、何かの間違いで召喚されてしまったのだろう」

「一応、念のために鑑定をしておきましょう」

「うむ。それがよいでしょう」


 結論が出た男達は混乱している大和を連れて、とある場所へと向かった。


「え、ちょ! なんすか、これ!?」


 そこは鑑定の儀を行う祭壇。

 ここで召喚された勇者達はその能力を鑑定するのだが、完全にイレギュラーである大和に能力があるかどうか。

 それは見てみなければ分からない。


 と言う訳で男が鑑定の儀を執り行い、大和の能力を鑑定する、

 結果は外れ。なんのスキルも持っておらず、完全にただの一般人。

 つまり、戦闘に役立つどころか、無駄に食料や水を消費するだけの無能でしかなく、お荷物のような存在。


「これは……完全に外れですな」

「無能力者とは……」

「女神様の恩恵すら受けていないとは嘆かわしい」

「しかし、どうしますか? 送り返すには魔王を倒し、女神様のお力がお戻りになるまでは無理ですぞ」

「致し方ない。酷であるがランダムに転送し、魔物の餌にでもしよう」


 聞こえないように彼等は大和を始末することに決めたのであった。


 何の説明もなく、何の挨拶もなく大和は転送陣へと連行されて、突然男達の手によって全く別の場所へと飛ばされてしまった。


「うえ……? あれ? ここは……」


 眩い光に包まれたと思ったら、いつの間にか目の前の景色は一変していた。

 先程は神殿のような建物の中だったのに、今は鬱蒼とした森の中。

 深い霧に視界は覆われているが近くには木と草が見える。


 今度は森の中かと大和は溜息を吐く。

 一体、自分は何をされているのだろうかと。

 既に夢ではないことを理解しているが、まだ大和は楽観視していた。

 恐らくだが何かのドッキリだろうと。


「あの~! もうネタバラシには十分だと思うんですけど~?」


 大きな声で叫ぶ大和。

 彼はドッキリを仕掛けたテレビ番組のスタッフが近くにいるのだろうと考えていた。

 しかし、すぐに違う事が分かる。

 深い霧の中から異形の化け物が現れたのだ。

 小学生くらいの子供と同じ背丈をした緑色の肌をしており、手には棍棒が握られていた。


 流石の大和もそれを見てすぐに化け物の名前が分かった。


「ゴブリン? へ~、よく出来てるな~」


 まだ事態を軽く見ている大和は無防備にゴブリンへと近づく。

 すると、次の瞬間、ゴブリンが跳び上がると大和の頭を持っている棍棒で思い切り叩いた。


「うぎゃあッ!!!」


 頭を殴られた大和は悲鳴を上げて、その場に尻もちをつく。

 ゴブリンに殴られた頭を触るとズキズキとした痛みがあり、それどころか血を流していることに大和は震えた。


「え、あ、え? ドッキリじゃない? う、嘘だろっ……!」


 これは不味いと本能で判断した大和の行動は早かった。

 ゴブリンが次の攻撃を仕掛ける前に大和は脱兎の如く逃げ出す。

 殴られた頭が痛くて堪らないが今はそれどころではない。

 あのままだったら殺されていたかもしれないという恐怖が大和の体を突き動かしていた。


「ハア……ハア……ッ!」


 全速力で逃げる大和は草をかき分け、木の根を避けてひたすら走る。

 時折、何度か後ろを振り返りゴブリンが追いかけてきてない事を確かめながら大和は必死で逃げる。


 それからどれくらい走っていただろうか。

 大和は息も絶え絶えで足を動かすのもやっと。

 もうこれ以上は動けないとその場に座り込んでしまう。


「(くそ……。なんだよ、一体何がどうなってんだよ。誰でもいいから説明してくれよ……)」


 木の陰に座り込む大和は大きく息を吐きながら空を見上げる。

 木々で空は隠れており月すら拝めない空に大和は思い耽る。

 一体何がどうしてこのような事になってしまったのだろうかと。

 自分は何か悪い事でもしたのだろうか。


「(ちくしょう。帰って楽しみにしていたアニメを見るはずだったのに……どうして、こんなことに!)」


 ポケットにしまっていたスマホを取り出して大和はがっくりと項垂れる。

 電波が一つも立っていなかったのだ。

 期待していただけにショックは大きい。

 これではただの時計に過ぎない。

 ただ、大和は音楽をスマホに入れているのでただの時計ではなくBGMが流れる時計である。


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