5-2 牙猪の一家

 「いいけどさ、最近フォルスが持ってくる仕事って、地味なのが多いよね」


 森に向かいながら、レイルが言った。


 「そうか? 魔狼討伐とか、滅茶苦茶派手だと思うが」


 「あれだって、最初からそういう仕事だったわけじゃないじゃんか」


 「んじゃ、今回も、開けてみたらド派手かもしれないな」


 「だといいけどね」


 「そんなに、この前の試験官はつまらなかったか?」


 「つまらないっていうか、鬱陶しい。

  なんか、あの剣士の女、サンドラだっけ? 妙に懐かれちゃってさ」


 「あ~。手ぇ出すなよ。一応、試験官やった関係があるから、問題になるぞ」


 「大丈夫。僕は処女には手を出さない主義だから」


 「なんで処女だってそんなことわかんだよ」


 「フォルスは、わかんないんだ?」


 「むしろ、わかる奴がいるのが驚きだ」


 「見てればわかるじゃない」


 「初耳だな。そういうもんなのか?」


 「君は商売女ばかり相手にしてるから、わからないのかもね。寂しい人生だなあ」


 「言ってろ」


 レイルはよくセシリアを“処女”と揶揄しているが、そういうことだったのか。

 …あれ?


 「お前、セシリアがマネージャーに就いた時から“処女”って言ってたよな。いつの間に見てたんだ?」


 不思議に思って訊いてみると、レイルがポカンとした。


 「レイル?」


 声を掛けると、妙に呆れたような顔をする。


 「僕の話、聞いてた?

  見ればわかるって言ったじゃない。

  あいつ、一見お堅そうに見えるけど、初めて会った時から君のこと狙ってたからね」


 「狙うってなんだよ」


 「だから、君とよろしくなりたいってことでしょ。

  もしかしたら、僕らのマネージャーになったのも、君とお近づきになりたかったからかもよ」


 「んなわけあるか。

  マネージャーってのは、なりたいって言って付けるようなもんなのか?」


 「そんなことは知らないけどさ」


 なんか確信があるとかいうわけじゃないのかよ。


 「んな無責任な。

  第一、セシリアが俺にコナ掛けてるように見えんのか?」


 そう言うと、レイルは呆れたと言わんばかりの目で見てきた。


 「呆れたね」


 いや、口でも言ってきた。


 「あれだけ熱の籠もった目で見られておいて、気が付かないとか、君の将来が心配になるね。

  よく“孫が生まれるまでは”とか言ってるけど、そもそも君、結婚できるの?」


 あのセシリアがそんなことすっかよ。

 まぁ、俺が結婚できそうにないってのは同意するけどよ。


 「俺ぁ孤児だからな、家族とかって想像つかねぇのは間違いねぇよ。

  ともかく、あんまセシリアに突っかかるなよ。マネージャーと揉めてもいいことはないんだからよ」


 「…気が向いたらね」


 それって、その気はないってことだよな!

 まぁ、今これ以上言っても話は進まないだろうから、言わないけどな。




 そんなこんなで野営して、また牙猪のいた森へとやってきた。

 「とりあえず、この前のミツバ草んとこに行ってみるか」


 「ん」


 この前、かなり騒ぎはしたが、イリス達はミツバ草を踏まないよう距離を取っていたから、群生地自体は無事だった。


 「あっちから来たんだったな」


 結界を張って、牙猪が走ってきた方角を目指してみる。結界内で風を操り、風の向きに関係なく匂いが目指す方向に行かないようにしながら。

 牙猪は魔狼に比べれば小さいが、それでも結界内で動いたらわかる程度には大きな魔獣だ。

 見落とさないように慎重に歩く。

 それなりの巨体でどかどか走ってたから、下草が結構荒れている。

 跡を辿るにはありがたいな。


 「む? いくつか反応があるな。地面の上だから、蜂じゃない」


 「んじゃ、そこに行ってみようか。

  姿消す?」


 「ああ。音も、後ろにかなり流せてるはずだから、そう簡単には気付かれないだろう」


 「牙猪がいたら、問答無用でいいね?」


 「頼む」


 軽く方針を決め、さらに進む。

 細心の注意を払い、ゆっくりと進むと、そこには、牙猪の成獣1頭と仔が7頭いた。

 成獣は、この前の奴のつがいとして、後のは子供か。

 可哀想だが、成獣になったら危険度はずっと上がる。今のうちに殺さないと。


 「レイル、合図したら、成獣の方だけ確実に頼む。

  チビ共は、下から顎を射貫くから」


 「ん」


 離れた場所での魔法の発動は、時間が掛かる。

 結界内の魔素を使って魔力を練り、気付かれるギリギリでレイルに合図した。


 「ふっ!」


 レイルが駆けだし、成獣との距離を一気に詰める。成獣が気付いたが、もう遅い。レイルの剣が首を斬り裂いた。

 同時に、俺も土の槍を地面から生やして、チビ共の頭を下から貫く。

 レイルがもう一撃加えて、成獣の首が落ちた。


 「ふう」


 魔石をそれぞれ回収し、体には状態固定の魔法を掛けて、とりあえず一安心か。


 「さて、どうしてこいつらがここにいたか、だな」


 「君の考えだと、この辺りに魔素溜まりがあるっぽいんだろ」


 「まぁな。自信があるわけじゃないんだが、可能性として、それが高そうだと思うんだよなぁ」


 魔素の流れを探る。

 こういう時、俺の目は便利だ。

 集中すれば、魔素が見える。

 木の葉が風に流されるように、魔素が流れているかを見てみる。

 この辺りの魔素は、ごく普通の濃さだな。

 少し離れたところまで足を伸ばすしかないか。

 そう思ったんだが。

 ふいっと、レイルの猫が走り出した。


 「あれ? みゃあ?」


 まったく、だから猫なんて連れてくるのは嫌だったんだ。

 レイルが猫を追い掛けていったが、俺はそんなことする気にはならない。

 少し集中しすぎたし、レイルが戻ってくるまで休憩するか。


 「フォルス! あった!」


 レイルの叫び声が響き、反射的に駆けだした。あの声はただ事じゃない。

 レイルの走った後にできる魔力の軌跡を追って行くと、木の根元に、それはあった。

 魔素溜まり。人間がうずくまったくらいの大きさのそれは、俺の目には闇の塊のように見える。

 その塊を、レイルの猫がつついていた。


 「魔素溜まり…か」


 「みゃあはすごいだろ、フォルス。思い知ったか」


 レイルが胸を張る。

 いや、まぁ、確かにお手柄ではあるが、何を思い知れと?


 「本当に魔素溜まりがあったな。それも牙猪の住処のすぐ近くに。

  こうなると、魔素溜まりが魔獣を引きつけるって仮説に信憑性が出てくるなぁ」


 んで、この魔素溜まりはどうしようか。

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