Ⅻ
「さてと……やるか?」
翔也がからのプラスチック容器を袋に入れて、割り箸も一緒に入れる。
「え?」
「え? じゃ、ねーよ。シャボン玉、やるんだろ?」
「あ、そうだったね」
二葉は、あたふたしながら、シャボン玉セットの箱を開けた。
液体が入った容器とシャボン玉を作るための道具が二つずつ入っている。
二人はそれぞれ手に取り、液体につけて、口にくわえて、優しく息を吹きかけた。
シャボン玉は宙へと飛んでいく。
「きれい……」
近くにいた子供たちが、どんどん集まってくる。
桜とシャボン玉がマッチングして、景色が一段と良くなる。
(シャボン玉って、小学校以来だな。意外と、気持ちが落ち着くな……)
翔也は、今までの気持ちが嘘みたいに落ち着く。
桜とシャボン玉は、人の心を豊かにしてくれるものなのかもしれない。
二葉もまた、早くなっていた鼓動が平然と治っていた。
それから、シャボン玉を楽しんだ二人は山を下り、屋台を回って、駐輪場に行き、帰る準備をする。
(あれ? 達巳の自転車がないな。まさか、もう、帰ったのか? あの野郎、自分から誘っておきながら帰るなんて……)
翔也は自転車のかごに夏海へのお土産を入れる。
夏海もまた、唯の自転車がないことに気が付く。
(唯ちゃん、帰ったのかな?)
翔也と二葉が駐輪場に少し来る前——
「あ、しまった‼」
達巳は頭を抱えた。
「どうしたの⁉ いきなり! びっくりするじゃない‼」
唯は驚いて言った。
「あ、ごめん、ごめん。でも、一つだけ、俺としたことが忘れていた」
「何よ……」
一応、訊いてみる唯。
「自転車、移動させておくのを忘れていたんだよ」
「あ……」
唯もそう言われて気が付く。
自分も二葉の隣に自転車を止めていたことをすっかり忘れていた。
「どうするのよ?」
「そうだね。二人より先回りして、移動するしか方法はないが、おそらくあの二人も帰るだろうし、先回りしてもいいんじゃないかな」
「それもそうね。私もこれくらいでいいと思うし、これ以上、何もないでしょう。後は帰って二葉から聞くことにするわ」
達巳はニコニコしている。
「なによ……」
「いや、別に……」
「気持ち悪いわね」
唯は達巳をギロッと、睨みつける。
「何も企んでないよ。それにしても唯ちゃんは、何で二葉ちゃんを応援するの?」
二人は翔也たちと別のルートで目的地に向かう。
「それはね。あの子がほっとけないからよ」
「ほっとけない? まぁ、見てみれば分かるような、分からないような」
「あなたねぇ。話しても無駄かもしれないけど、特別に話してあげるわ」
× × ×
幼き頃の唯と二葉は、そこまで仲のいい友達だったわけではない。
今から四年前——
二人は、中学校一年生の時に出会った。
初めの頃は、お互い、あまり話すような同級生でもなく、普通の同じクラスのクラスメイトみたいな感じだった。
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