Ⅶ
「それもそうだな……」
達巳は納得する。
「その前に……この格好、周りから見て、俺たちどんな風に見えているんだろうな」
「それはあんただけには言われたくないわ……。その案に賛成した私も私だけど……」
自分がつけている眼鏡とマスクを見ながら、ため息をつく。
「それにしてもぎこちないわね。あんた、山下君は本当に二葉の事が好きなんでしょうね。聞いているの?」
「聞いているよ。そこまでは俺には分からないが、あの三人の中で誰かに好意を持っていたのは確かだったんだよな。今はそれを見極めている所、一花ちゃんや三咲ちゃんにはそれぞれの個性があるけど、二葉ちゃんは俺からしてみても、難しいんだよな。唯ちゃんは、その点に関してはどう思っているわけ?」
「そうね。あの子の個性的なところ……」
唯は考えるが全然思い浮かばない。
「やばい……。あの子、案外平凡なのよね。顔立ちは可愛いのだけど……普段は、本ばかり読んでいるし、んー、何があるのよ……」
頭を抱える。
「ま、唯ちゃんは、平均並みのスペックだし、どれをやっても微妙なんだよね。それに比べて、一花ちゃんは勉強が得意だし、スポーツもできる文武両道のハイスペックを持っている。三咲ちゃんは、コミュニケーション能力が高くて、ファンクラブができるほどだからな。知っているか? 彼女たちにファンクラブ的なものがあるって……」
「ええ、知っているわよ。特に男子たちでしょ。こっちとしては迷惑だって話よね。それって、彼女たちは知っているの?」
「いいや。これは裏情報だから知らないはずだ。もちろん、翔也も知らない。俺が規制を張っているからな」
「そう……」
翔也たちは、近くの屋台で立ち止まる。
「あいつら何をやっているんだ?」
「何か買おうとしているわね」
二人は階段を降りると、人ごみに隠れる。
「何か食べたいものあるか?」
翔也は二葉に訊いた。
「りんご飴……」
「え? なんて?」
二葉の声が小さくて、何を言っているのか聞こえなかった翔也は訊き返す。
「りんご飴……」
「はぁ?」
「だ~か~ら~、りんご飴だってば‼」
二葉は声を上げた。
「お、おう……」
びっくりした翔也は、耳をふさぐ。
「ん~‼」
二葉はほっぺを膨らませて、翔也の方を睨みつける。
「分かった、分かった。だからな、それくらいにして機嫌直してくれよ」
翔也は二葉を感情を抑えようとする。
「じゃあ、りんご飴な。あそこでいいか?」
「うん……」
翔也が指さす方にはりんご飴の屋台があり、そこで買おうとする。
「おじさん、りんご飴二つ」
翔也は財布を出して、お金を支払う。
りんご飴を二つ受け取ると、一つを二葉に渡した。
「あ、ありがとう……」
それを受け取った二葉は礼を言った。
二人はりんご飴を食べながら、再び歩き出す。
「二葉は、どうして竹下と一緒に来ていたんだ?」
翔也がりんご飴を食べながら訊いてみる。
「それは……唯ちゃんが、一緒に行こうって言ったから……」
「それだけか?」
「うん……」
「そうか……。だとするなら、竹下と達巳は、元々内通者として、お互いの行動を把握していたかもな……」
「え?」
「いや、何でもない」
「それよりもこれからどうする? もう、帰るか?」
翔也が二葉に提案する。
「え? あ……」
二葉は言葉を失う。言いたいことがあるのに言えない。
(帰るの……。で、でも、せっかくのチャンスなのに……)
すると、二葉のスマホに電話がかかってくる。電話の相手は唯からだった。
「はい……」
『あんた、何考えているの⁉ 今がチャンスなんだから、手ぐらい握りなさいよね‼』
唯は電話越しで二葉に説教をした。
「で、でも……」
『でもじゃない。しっかりやりなさい! いいの? このままで?』
「………」
『それにね。あんたにはあんたにしかできないものがあるんじゃないの? 大丈夫、まだ、遅くないわ』
唯の説教を聞いて、二葉は少しホッとする。
だが、腑に落ちない点があった。
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