「それもそうだな……」

 達巳は納得する。

「その前に……この格好、周りから見て、俺たちどんな風に見えているんだろうな」

「それはあんただけには言われたくないわ……。その案に賛成した私も私だけど……」

 自分がつけている眼鏡とマスクを見ながら、ため息をつく。

「それにしてもぎこちないわね。あんた、山下君は本当に二葉の事が好きなんでしょうね。聞いているの?」

「聞いているよ。そこまでは俺には分からないが、あの三人の中で誰かに好意を持っていたのは確かだったんだよな。今はそれを見極めている所、一花ちゃんや三咲ちゃんにはそれぞれの個性があるけど、二葉ちゃんは俺からしてみても、難しいんだよな。唯ちゃんは、その点に関してはどう思っているわけ?」

「そうね。あの子の個性的なところ……」

 唯は考えるが全然思い浮かばない。

「やばい……。あの子、案外平凡なのよね。顔立ちは可愛いのだけど……普段は、本ばかり読んでいるし、んー、何があるのよ……」

 頭を抱える。

「ま、唯ちゃんは、平均並みのスペックだし、どれをやっても微妙なんだよね。それに比べて、一花ちゃんは勉強が得意だし、スポーツもできる文武両道のハイスペックを持っている。三咲ちゃんは、コミュニケーション能力が高くて、ファンクラブができるほどだからな。知っているか? 彼女たちにファンクラブ的なものがあるって……」

「ええ、知っているわよ。特に男子たちでしょ。こっちとしては迷惑だって話よね。それって、彼女たちは知っているの?」

「いいや。これは裏情報だから知らないはずだ。もちろん、翔也も知らない。俺が規制を張っているからな」

「そう……」

 翔也たちは、近くの屋台で立ち止まる。

「あいつら何をやっているんだ?」

「何か買おうとしているわね」

 二人は階段を降りると、人ごみに隠れる。


「何か食べたいものあるか?」

 翔也は二葉に訊いた。

「りんご飴……」

「え? なんて?」

 二葉の声が小さくて、何を言っているのか聞こえなかった翔也は訊き返す。

「りんご飴……」

「はぁ?」

「だ~か~ら~、りんご飴だってば‼」

 二葉は声を上げた。

「お、おう……」

 びっくりした翔也は、耳をふさぐ。

「ん~‼」

 二葉はほっぺを膨らませて、翔也の方を睨みつける。

「分かった、分かった。だからな、それくらいにして機嫌直してくれよ」

 翔也は二葉を感情を抑えようとする。

「じゃあ、りんご飴な。あそこでいいか?」

「うん……」

 翔也が指さす方にはりんご飴の屋台があり、そこで買おうとする。

「おじさん、りんご飴二つ」

 翔也は財布を出して、お金を支払う。

 りんご飴を二つ受け取ると、一つを二葉に渡した。

「あ、ありがとう……」

 それを受け取った二葉は礼を言った。

 二人はりんご飴を食べながら、再び歩き出す。

「二葉は、どうして竹下と一緒に来ていたんだ?」

 翔也がりんご飴を食べながら訊いてみる。

「それは……唯ちゃんが、一緒に行こうって言ったから……」

「それだけか?」

「うん……」

「そうか……。だとするなら、竹下と達巳は、元々内通者として、お互いの行動を把握していたかもな……」

「え?」

「いや、何でもない」

「それよりもこれからどうする? もう、帰るか?」

 翔也が二葉に提案する。

「え? あ……」

 二葉は言葉を失う。言いたいことがあるのに言えない。

(帰るの……。で、でも、せっかくのチャンスなのに……)

 すると、二葉のスマホに電話がかかってくる。電話の相手は唯からだった。

「はい……」

『あんた、何考えているの⁉ 今がチャンスなんだから、手ぐらい握りなさいよね‼』

 唯は電話越しで二葉に説教をした。

「で、でも……」

『でもじゃない。しっかりやりなさい! いいの? このままで?』

「………」

『それにね。あんたにはあんたにしかできないものがあるんじゃないの? 大丈夫、まだ、遅くないわ』

 唯の説教を聞いて、二葉は少しホッとする。

 だが、腑に落ちない点があった。

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