Ⅴ
「一応、二千円渡しておくから余ったら、アイスでも買ってもいいわよ」
「ありがとう」
夏海が千円札を二枚受け取る。
「おーい、一枚は俺の…だからな」
そして、一枚は翔也の方に渡される。
「はい、お兄ちゃん」
「ありがとう」
「いえいえ」
「なんでお前が偉そうなんだよ」
翔也は、千円札を受け取りながら、右手で夏海の頭を軽くチョップする。
「あいた!」
頭を押さえる夏海。
「じゃあ、これでお昼も向こうで済ませちゃおうよ」
「そうだな…」
夏海の提案に流される形で翔也は答えた。
「んじゃ、行こうか。お兄ちゃん」
「ああ」
「気を付けていくのよ」
母親は心配そうにして、再び部屋に戻った。
翔也と夏海は、すぐに着替えて準備をし、家を出た。
× × ×
家から月曜日に三咲と遊んだショッピングモールまではバスで十分ほどだ。
ショッピングモールは休日なのか、多くの家族連れで賑わっていた。
それだけ、この街に好まれている場所であり、翔也は夏海の手を握る。ま、周りからしてみればデートみたいに見えるのだが、別に大したことではなく、昔から一緒に居ることも多かった上、自然の成り行きみたいなものである。
今日の夏海は、水色の半袖の服に上からもう一枚、長袖の白い服を着て、白の長いスカート姿。どこからどう見ても清楚系女子に見える。
翔也にしてみれば、いつもと違和感に見えるくらいだ。
ショッピングモールに入ってすぐに夏海は、翔也の手から離れ、カートと買い物かごを取りに行った。
「ねぇ、お兄ちゃん! マック! マック、食べてから買い物しよ!」
「ああ、でも、よく見てみろ。朝の十時だっていうのにこんなに並んでいるんだ。お昼になったらもっと並んでいるかもな。それでもいいのか?」
「……。んー、急にマック食べたく思えなくなってきた……」
がっかりとした表情で腕を下ろす夏海。
恨みがましい視線で翔也を見てくる。
「お兄ちゃんのせいで、並んでも食べたいと思っていたマックが食べられなくなったよ。中学生は帰りに寄り道できないのに……」
夏海はぶつくさ文句を言うが、翔也に言われても困る。
(それは学校の規則だろ。高校生になればたくさんできる)
「お兄ちゃんさー、デートの時もそんな風に否定しちゃだめだよ。女の子が『~したい』って言ったら、『それにちゃんと付き合ってあげる』これ女心を理解するうえで重要だよ」
「は、はぁ……」
(そんなこと言われても、彼女いないってーの)
「大丈夫。お兄ちゃんの彼女は、お兄ちゃんに付き合える人だけだから。まぁ、私だったらお兄ちゃんとは付き合わないけどね。面倒だし、良かったね、妹で……」
「うぜぇ……」
(ってか、赤の他人だったら付き合いなかったのかよ)
「そんなことより、早く買い物を済ませてお昼ご飯食べよ」
そう言って、夏海は翔也の手を引っ張り、カートを押す。
「ちょっ、お前、急に手を引っ張るな。危ないだろ」
一階の文房具の所は、ノートやシャープペンなど、大人から子供まで選べそうなものがたくさん並んである。
だが、その沢山な文房具がある中に一人見覚えのある黒髪が見えた。
その黒髪ロング姿の少女は、ノートを二つ持ちながら、うーん、と悩んでいた。
「ねぇ、あれって……一花ちゃんじゃない?」
翔也も夏海も気づいた。
(おい、あいつ何をノーとごときで悩んでいるんだ?)
夏海と違い、軽く羽織った黒色のカーディガン、ふんわりとした清楚なワンピースは、出るところ出て、体のラインに則って出ている。
だが、本人は周りの視線など気にしないで、教室にいるときと同じ、礼儀正しいような表情でいる。
一花は値段を確認しながらノートを見極め、中身まで酷使する。さらに、周囲を見渡してからまたノートを見る。
(ただの変質者じゃねーか……)
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