第2章  変わりゆく心

 次の日の朝——

 翔也はいつも通りに起き、朝食を食べ、学校に登校し、教室で時間になるまで本を読んでいた。

 まだ、三つ子の姉妹たちは登校してきていない。

 そこへ、先程登校してきた達巳が翔也に話しかけてくる。

「翔也、おはよう」

「ああ……」

 翔也は、本を読んだまま返事をする。

 達巳は今日の翔也の様子に違和感を覚えた。

 いつも通りの翔也は、翔也、そのままであるのだが、何か少し歯車が合わない。

「ん? どうかしたか?」

 翔也は、何も話してこない達巳に言った。

「あ、うん…ちょっとな……」

「ふーん」

 達巳は誤魔化す。

(んー。やはり、俺が帰った後何かあったな…。昨日と何か違うんだよな…。一体何があったんだ?)

 すると、三つ子の三姉妹が教室へと入ってきた。

「翔君、おはよう!」

「ああ、おはよう」

 三咲が翔也に挨拶をすると、翔也は挨拶を返す。

(ん? あれ? 翔君? 三咲? 昨日まで、名前で呼び合っていたか? んー、何かあったな……)

 達巳は、二人の違和感に感づく。

「なぁ、翔也。お前、三咲ちゃんと仲良かったか?」

「ん? ああ、昔から仲良かっただろ?」

 翔也は平然と答える。

「お、おう……」

 達巳は、三咲の方をちらっと見る。

(んー、なんとなくおかしいんだよな。この二人……)

 三咲は、バックを机の横についてあるフックにかけ、席に座る。

 他の二人も三咲が翔也のことを名前予備したことに動揺していた。

(しょ、翔君って…三咲…)

(み、三咲? しょ、翔君?)

 二葉も、一花も、頭の中が空回りする。

(どうやら、他の二人も満更ではないようだな……)

 達巳は、はぁ、とため息を漏らす。

「………」

 翔也は、本を読んだまま黙っている。

 朝のチャイムが鳴り、全校生徒がそれぞれのクラスに入る。

 そして、今日も長い一日が始まる。


 昼休み——

 午前中の授業も終わり、全校生徒のほとんどが昼食を取る。

 翔也は、お弁当は持ってきておらず、学校の売店で弁当やパンを購入して、それを昼食として食べる。

 バックの中から財布を取り、立ち上がる。

「ねぇ、翔君。売店に行くの?」

 三咲が声を掛けてきた。

「ああ…」

「じゃあ、私も一緒に行こうかな?」

 三咲も学区から財布を取り出し、立ち上がる。

 そこへ、いつも通りに達巳が翔也の元へとやって来る。

「翔也、俺も行くわ。部活前に一個くらい食べておきたいからな」

 三人はそろって教室を出た。

 教室に残された一花と二葉は、その様子を見たまま黙っていた。

(な、な、なんで…。え? 三咲と翔也君って、そんなに仲良かった? でも、中学、高校でもまともに話した事ないですし、いきなり親密になるなんて……)

 一花は、バックから弁当を取り出して、まだ、食べずにいる。

(………)

 二葉は、ただただ、死んだ魚のように動かずにいる。

 三咲と翔也、二人の間に何があったのか。二人は知らずに過ごしている。


「それにしてもお前ら、いつの間に名前で呼び合うようになったんだ? 昨日まで仲良さげじゃなさそうだったから…。翔也、俺が帰った後、何かあっただろ? 俺の勘は、意外と当たるんだからな」

「達巳、お前には関係ない。どうだっていいだろ?」

「ねぇ、翔君。北村君と何かあったの?」

 三咲が二人の隣を歩きながら、不思議そうに訊いた。

「ん? まぁーな。三咲には関係ない。こっちの話だ。こいつが余計なことしないように釘を刺しているだけ」

「あー、そういう事」

 三咲はうなずいて納得する。

「あの、お二人さん。二人だけの世界に入らないでもらえます?」

 達巳は苦笑いする。

「でも、本当に何があったら仲直りするんだ?」

「はぁ? 仲直りって、そもそも俺たち喧嘩なんてしていないだろ?」

 翔也は三咲の方を見る。

「うん。喧嘩なんてしたことないね。むしろ、ただの自然消滅みたいな感じ」

「そうだな」

 二人とも意見がそろう。

「まぁ、いいか…。何があったのかはこれ以上訊かない。なーんか、面倒だからな……」

「そうしてくれ」

 三人は一階に降り、渡り廊下を歩き、売店の方へと向かう。

 学年問わず、売店には、主にパンを購入しに来ていた生徒でいっぱいになっていた。

「これは…先に予約しておかないと面倒ね……」

 三咲は、呆れていた。

「でも、予約しておいておけば面倒はない」

 翔也は、売店の扉を開け、中へ入る。

「おばちゃん。予約しておいたパン、ある?」

「ああ、あるよ。そこに置いてあるからお金は五百円ね」

「ありがとう。ついでにプリンも買うわ」

 翔也は、透明の冷蔵庫からプリンを一つ取り出し、袋に入れる。

 お金はプリン代も入れ、合計六二〇円を支払う。

 すると、隣にいた三咲もプリンを持って、一緒に支払いをする。

「おばちゃん。私も置いておくね」

「はい。ありがとう」

 二人は売店を出た。

「あれ? 今思ったんだけど…北村君は?」

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