第54話 月島目線②

 あの日パーティーで顔を合わせてから――西条のことが、頭から離れへんかった。

 普段やったら、一回拒まれた女なんか興味もすぐ冷めるのに、あの時のあの目……あれだけは妙に脳裏に焼き付いて離れん。


 気がつけば、かねばらまいて僕の取り巻き連中に、あいつのこと調べさせた。

 調べれば調べるほど、出るわ出るわ。

 中学じゃテニス部のエース、モデルの仕事もこなしてる。学業成績も常にトップ。まさに完璧な優等生や。


 ――あの時の強気な態度、そら自信もあるわけや。


 けど、それ以上に……ゾクゾクした。

 刺激のない毎日や思てたのに、急に目の前に珍しいおもちゃを置かれたみたいな感覚やった。


 気になったのは、あの時言うてた「好きな人」。

 どんな男やねんと探ってみたら――出てきた写真見て、思わず鼻で笑った。


 顔はそこそこやが、何一つ取り柄がない。

 家柄も地位もなし。

 なんで、こんな凡に惚れとるんや……。


 ちょっと考えて、答えはすぐ出た。


 幼馴染や。長い時間一緒におれば、そら情も湧く。愛着みたいなもんやろ。

 ‥‥まあ、それはええ。


俺にとって重要なのはそこやない。


 西条に近づくため、あいつが中三から通ってる塾に俺も入り込んだ。もちろん、一番上のクラスや。

 周囲からは「月島くんも受験勉強?」なんて笑われたけど、目的は別や。


 観察を続けて、すぐに分かった。

 あの女、狂ったみたいに勉強しとる。

 成績は余裕でトップやのに、隙あらば机にかじりついて、追い詰められた顔でノートに書き込む。

 普通の努力家のそれとは違う。何かに怯えてるような、必死さや。


 調べを進めるうちに、答えも見えてきた。

 西条の家は、うち以上に厳しい。

 親から「どんな分野でも一番でいろ」と義務付けられ、それを破れば容赦ない叱責。


 あいつはその重圧を隠して笑ってるだけで、実際は精神的にギリギリや。


 ……そして、そのギリギリを何とか保ってるのが、あの凡人――ミツキ。

 平凡やが、彼女にとって唯一の拠り所みたいや。







 そこまで分かった時、頭の奥でスイッチが入った。

 あの関係は脆い。ちょっと押せば、一気に崩れる。

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――キスしてみませんか?~ツンデレ同級生に振られた俺は、グイグイ来る後輩に迫られて――?~ 夜道に桜 @kakuyomisyosinnsya

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