第7話 やっぱり出産する女はとてもキレイだ

 美波の出産に立ち会う事になった翔。


 しかし、翔はPSASイクイク病である。はたして何事もなく、無事美波の子供は生まれるのだろうか。


「まだ弱い陣痛が長い間隔でじわじわときてる感じかな。まだけっこう時間がかかりそう。早紀、何か用事があったら今のうちに済ませておいて。旦那さんには連絡した?」

「まだ。これからするね」


「私も主人に電話する。仕事を切り上げてすぐ来るように言わなきゃ。あと上の子はお母さんに保育園まで迎えに行ってもらって、そのまま面倒見てもらう」

 さすがに、まだ幼い子を出産に立ち会わせるのは刺激が強すぎるのだろう。


「もう少し大きくなったら子供にも立ち会わせようと思ってるけどね」

「カトミナ、あなた何人産むつもりなの?」

「出来るだけたくさん。2人くらいじゃやめないよ」

 美波は、陣痛の合間に旦那と母親に電話していた。


 翔も早紀に電話した。

「今カトミナの所にいるんだけど、彼女陣痛が始まってしまって。それで彼女の出産に立ち会う事になった」

「へー。いいんじゃない。きっと参考になるよ」

「ちょっと遅くなるけど迎えに来てね」


「でもいいなあ。私も見たい」早紀も興味津々な様子だ。

「(小声で)今の身体じゃ無理でしょ。残念だけど」

「そうだね。後で感想聞かせて」

「うん」


 だんだん陣痛が強くなり、間隔も短くなってきた。

「ンんっ……アアッ!……」

「カトミナ大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ。とにかく痛い。それに今の時期はいきみたいけどいきめないから苦しいんだよ。子宮口が全開になって分娩第2期に入るとかなりいい感じになる。私いきむの好きだから」

 いきみたいのにいきめないこの状態は結構辛いのである。さすがの美波もしんどそうだ。


 必死でいきみ逃しをする美波。なかなか時間が経過せず、長い苦しみの時間が少しづつ進行していった。


 かなり時間が経過し、ようやく変化が現れた。

「あ……破水したかも。水がおりて来た」

「破水ってかなり出産が進んでから起こるんだっけ?」翔が尋ねた。

「そう。普通だと子宮口が全開大してから」


「そういう実況があると本当に勉強になる。やっぱり立ち会って良かった」

「でしょっ。ううっ……」

「大丈夫?」

「 破水すると急に陣痛が強くなるの。んっ、はぁっ」


 かなり苦しそうな表情を見せる美波。

「でももういきめるから楽なんだ」


 何度かいきむ美波。

「うーーーーん」

 心なしか表情が柔らかい。


「あなたって本当にすごい助産師だね」翔は感心して伝えた。

「もうすぐ主人が戻って来るの。その前にあなたに大事な事を伝えなくちゃ」

「何? 大事な事って?」


「出産は本来自然な事なんだっていう考え方に基づいて、出産を積極的に楽しむの。そうすれば私みたいにきっといいお産が出来ると思う」

「そんなものなの?」

「そう、難しく考えちゃだめ」


「早紀、目をそらさないで。しっかり見て。これくらいの刺激に耐えられなければ自然分娩は出来ないよ」

「分かった。私絶対下から産みたい」


 翔は覚悟を決めた。せっかく美波がここまで自分の事を考えてくれているのだ。これからの出産に向けて、出来る事はなんでもしておこうと思った。


 すると……

「ただいま」

「おかえり。今破水したから、もうすぐ生まれる。早く手伝って」


 美波の旦那である加藤辰巳たつみは翔の方を見てびっくりしている。それはそうだろう。なにせ今にも生まれそうな様子で陣痛に苦しむ美波のそばに、見知らぬ女性がいるのだ。

「辰巳、紹介するね。友達の早紀」美波は、辰巳に翔を紹介した。


「原口早紀です。今日は美波さんの家に遊びに来ていたら突然陣痛が始まってしまいました。今まで心配なので付き添っていましたが、私はこれで失礼します」

 翔は、美波の出産に立ち会いたいのはやまやまであるが、旦那さんが帰宅した以上は自分がひどく場違いな気がして、帰ろうとした。しかし……


「待って早紀」美波は翔を引き留めて、旦那である辰巳に言った。

「辰巳、早紀に私達の出産に立ち会ってもらいたいの。ねぇ、かまわないよね?」

 すると、辰巳は少し困ったような表情で言った。


「早紀さん、あなたさえ良ければここに残っていただけませんか?」

 本心ではないかもしれない。でもせっかく夫婦そろって立ち合いを希望してくれているのだ。ここに残らない手はない。


 単刀直入に言えば、翔は立ち会いたくてウズウズしていた。これから来る自分の出産に役立てたかったから。

「本当にいいんですか。私お邪魔ではないでしょうか?」


 美波は断るはずがなさそうなので、翔は辰巳の方を見ながら尋ねた。

「ぜひお願いします」

 辰巳の表情はさほど嫌そうではないみたいだ。


 翔は辰巳に伝えた。

「先ほど美波さんからお話しを伺いました。絶対参考になると思います。だからご迷惑でなければ私も立ち会わせてください」

 翔は、興味津々で美波達の出産への立ち合い継続を決意した。


「早紀、出産の様子をスマホで撮影してくれる?」

「いいよ」

「そこにミニ三脚があるでしょ。録画ボタンを押したら、あとは三脚に固定して置いておけばいいから」


 今どきのスマホの動画機能は、数年前のムービーカメラよりもずっと性能が良くて操作も簡単である。動画に撮っておけば後日何度でも見返して、参考にする事が出来るのだ。


 美波は陣痛の合間には部屋の中を歩き回っている。

「うくっ」時おり、痛みで微妙にうめく美波。


 そして、陣痛が来ると小さなトイレのような椅子に座っていきむ。

「カトミナ、その座ってるの何?」

「分娩イスって言うの。これに座るといきみやすいよ」


 下着を脱いで分娩イスに座る美波。そして美波の前で、美波の旦那が出産の手伝いをしている。


 美波は大きなおなかをさすりながら赤ちゃんへ優しく声をかけている。すっかり母親の顔になっていた。


 また陣痛がきた。懸命にいきむ美波。

「うーーーーーん」

 陣痛が止むと、再び分娩イスから立ち上がる美波。そして……


 目の前で出産を目の当たりにしてとても立っていられなくなり、へなへなと座りこむ翔。

 翔にはあまりにも刺激が強すぎたようだ。


◇◇◇◇◇◇


 読んでいただきありがとうございました。


 次の第8話は、カトミナの出産を目の当たりにした翔。カルチャーショックとPSASの症状で気絶寸前に! これは貞操の危機以上のピンチだ! 果たして大丈夫なのでしょうか。お楽しみに!

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