第14話




 デートという名の地獄の裁きを終え、ケイオスは翌日の学園で生徒会メンバーにこれまでの経緯を訴えた。

「うわあ……」「ひえぇ……」とどん引きしていたのは伯爵令息と侯爵令息だ。キャロラインは顔を青くしてケイオスと同様に床に膝を突いた。


「白い結婚じゃなきゃ駄目なのか……? 俺はもうニコルに手を触れちゃいかんのか……?」

「ちょっと教会で懺悔してくる……いや、いっそ出家しよう」

「二人とも、落ち着いて」


 打ちひしがれるケイオスと罪悪感に苛まれるキャロラインを落ち着かせて、伯爵令息は二人に活を入れた。


「反省したなら、ニコル嬢の誤解が解けるように努力するしかないだろう。とにかくケイオスは今後、ニコル嬢に尽くせ」

「そうだな。デートに誘え。手紙を書け。贈り物をしろ」

「……一人で行動する方が楽だと言われてしまった……」


 ケイオスは床に膝を突いたまま頭を抱えた。


「思うに、既にニコルは俺がデートに誘ってもあまり喜んでくれない……一人で行きたいところに行った方が楽だと思っている」


 昨日の言い分から、それがはっきり感じ取れた。

 ああ、愛想を尽かされるとはこういうことなのだ。ケイオスは知らない間にニコルに見切りをつけられていたのだ。


「しかし、白い結婚は嫌だろう?」

「当たり前だ!」


 若い男子として、そこは主張させていただく。


「では、どうにかしてニコル嬢の気持ちを取り戻すしかないだろう」

「でも、どうやって……」


 ことここに至ってはなりふり構っている場合ではない。


 という訳で、ケイオスは苦肉の策に出ることにした。

 自分よりもニコルのことを知っていそうな面々——ニコルのクラスメイトの令嬢達に協力を仰ぐことにしたのだ。

 もちろん、協力してもらう以上、ことの経緯は正直に打ち明けねばならない。いきなり集められて阿呆な男の粗末な転落劇を聞かされた令嬢達は大いに呆れて眉をひそめた。


「阿呆ですの?」

「愚かとしか言えませんわ」

「ニコル様がおかわいそう……」

「ニコル様に釣り合う縁談って本当にありませんの?」

「わたくし、ちょっとお父様に聞いてみますわ」

「わたくしも、お母様は隣国にお友達も多いですし……」

「待て待て待て! 気持ちは分かるが、今回ばかりはケイオスに協力してほしい!」


 ニコルに新しい縁談を持ち込もうとする令嬢達を、伯爵令息が慌てて止める。


「とりあえず、ニコルが一人で街に行こうとしていたら、俺に知らせてほしいんだ」


 ケイオスも素直に頭を下げた。


「何故、わたくし達がそんな密偵のような真似をしなければなりませんの?」

「そうですわ。それに、女の子って、一度嫌になった殿方ってもう顔を見るもの嫌になるものなのです」

「白い結婚でも結婚してくれるだけニコル様はお優しいですわ」


 いちいち令嬢達の言葉が突き刺さる。


「別れた後も彼女は俺が好き、とか思い込める男性の頭ってほんとどうなってますの?」

「自分が好きになった女性は皆、向こうも俺のことが好き、とか勘違いしている奴、たまにいますわよ」

「男が声をかけてくる時の、あの「俺に声をかけられて嬉しいだろう」って言いたげな態度が本当ムカつきますわ。お前に話しかけられるぐらいなら犬に吠えられた方がマシですわよ」


 最終的に何故か男性批判になって、ケイオスと他二人も肩身が狭くなる。男に生まれてすみません。


「キャロライン様もキャロライン様ですわ。幼馴染とはいえ、婚約者のいる殿方が四六時中自分の側にいて不思議に思いませんでしたの?」

「いつまで子供同士のつもりでいたのです?」

「王族にあるまじき鈍感さでしてよ」

「いやもうまったくごもっともで面目次第もない」


 キャロラインもいつになくしょんぼりしている。


 ひとしきり避難囂々を浴びた後、今回ばかりは勘弁してやろうという結論になった。


「しかし、興味のない相手に好意を抱かせるのって、嫌いな相手を好きにさせるよりある意味難しいですわよ」

「ああ。好きの反対は無関心っていいますものね」

「まさにですわね」


 令嬢達の物言いに容赦はない。ざくざく切りつけられた気分でケイオスは胸を押さえた。


「とりあえず、来週は交流会があるじゃありませんの。これまではケイオス様がキャロライン様にべったりでニコル様がお一人で壁の花となっておりましたけれど」

「うっ……」

「当然、ニコル様はいつものように一人でいるおつもりでしょうね」

「うう……」


 三ヶ月に一度の交流会は将来のための生徒同士の社交場だ。明確に定められている訳ではないが、婚約者がいる者は婚約者と一緒に行動することが多い。


「ニコル様に、来週は一緒に参加してもらえるように手紙でお願いするのです! 今、すぐ!」


 力強く命令され、ケイオスは唯々諾々とそれに従った。



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