【完結】転生者として、生きていく!!

初鳥 火苗

第一章 転生者

第1話 始まり

  **2020年8月7日**


今夜、俺――一ノ木 夢羽(いちのき ゆう)は、人生で最高の瞬間を迎える。


最高の瞬間といっても大げさではない。本当に、人生のピークを迎えるのだ。

人生には波があると言われるが、今夜――俺は間違いなく、幸福の頂点にたどり着く。


思えば、「彼女」と出会う前の俺は、何も持っていなかった。


名前の**夢羽**には、「夢に向かって自由に羽ばたいてほしい」という願いが込められている。

けれど、その名前とは裏腹に、俺は夢も欲も持たず、ただ漫然と日々を過ごしていた。


そもそも、羽ばたくための目標すらなかったのだ。


いや、名前が悪いわけではない。とても素敵な名前だし、気に入っている。

でも、名前に込められた想いに応えられなかったことを思うと、両親には申し訳ない気持ちになる。


……とはいえ、多くの人がそんなものではないだろうか?


夢を見つけても、大半の人は実現できず、何となく大人になり、現実に流されて生きていく。


俺もそんな一人だった。


平凡な友達を作り、平凡な学歴を経て、平凡な会社に就職し、惰性で働く――

そんな、しがないサラリーマンになった。


**しかし、そんな俺にも人生の転機が訪れた。**


友人に誘われ、軽い気持ちで参加した婚活パーティー。

そこで、「運命」と出会ったのだ。


そう――彼女、**六波羅 陽月(ろくはら ひつき)**と出会った。


「運命」なんて言うと大げさに聞こえるかもしれない。

婚活パーティーでのカップリングなんて、運命とは程遠いと言われそうだが、

それでも、彼女との出会いに心から感謝している。


空っぽだった人生に、彼女はたくさんのものを与えてくれた。


**そして今夜――**


三年間の交際を経て、ついにプロポーズをする。


とはいえ、サプライズ演出があるわけではないし、壮大な計画を立てたわけでもない。

お互い仕事で忙しい身。派手なことはできない。


だから、今回の三連休を利用した国内旅行の中で、さりげなく伝えるつもりだった。


そして、**今まさにその瞬間が訪れようとしている。**


---


### **◇**


夕食を終え、旅の疲れを癒やすために部屋でくつろいでいた。

そこそこ高級なホテルだが、豪華すぎない落ち着いた雰囲気が心地よい。


時計の針は、夜11時を指している。


陽月は「夜風に当たりたい」と言い、バルコニーへ出た。

窓の外、きらめく夜景に見惚れている。


俺は部屋の中から、そんな彼女を眺めながら、静かに夜の街を見つめた。


街灯やビルの照明――特別綺麗なわけではないが、

そこに人々の営みが感じられるこの光景が、俺は嫌いではなかった。


……バルコニーに出るのをためらっていたのは、高所が苦手だからではない。


タイミングを見計らっていたのだ。


ポケットの中、そっと指輪のケースを確かめる。

今どき、こんな古典的な演出をする人は少ないかもしれない。

それでも、憧れて準備してしまった。


**――よし、やるぞ。**


緊張を押し殺し、意を決する。


「陽月、こっちに来てくれないか」


「どうしたの?」


「大切な話があるんだ」


「ええ? 何?」


陽月はバルコニーから戻り、俺の前に立つ。


――**ついに、その瞬間が訪れた。**


心臓が高鳴る。緊張で、陽月の顔をまともに見られない。


「夢羽、顔真っ赤だよ。もしかして酔っちゃった? もう……あんなに飲むから」


「いや、違うんだ。本当に大事な話がある。聞いてくれ!」


そう言いかけた、その時――


**――ドンッ!**


突然、床が大波のように揺れた。


「えっ?」


陽月がバランスを崩し、よろめく。


部屋の中では、固定されていないものが次々と床に落ちていく。


そう――**大地震** が起こったのだ。


**――地震に巻き込まれた時、最善の行動とは何だったのだろうか。**


もし、この場に博識で冷静な者がいたなら――

これから先の結末は、違っていたのかもしれない。



         ※

一章の表紙を流行りのAIイラストと画像編集アプリでつくってみました。

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330657198251182


        

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